二月。
冷たい風の中でも、ここは公園で走った。
転んだ運動会の日から、ここは“転ぶこと”を少し怖がらなくなった。
「きょうは、ころんでも、なかない」
宣言して走り、実際に転び、そして――眉をしかめて、泣かずに立った。
いすみは拍手して、しんいちは「強いな」と言う。
ここは得意げに言った。
「だって、ここ、ねんちゅうさんだもん」
三月。
家にひな人形を飾る日。
ここはお内裏様とお雛様をじっと見て、問いかけた。
「このひとたち、けっこんしてる?」
「そうだね。お祝いの人形だよ」
「じゃあ、ここも、おいわい、する」
桃の花を飾り、ちらし寿司を食べた。
ここは甘酒の代わりにカルピスで乾杯し、しんいちは“それっぽく”うなずいた。
夕飯のあと、ここはぽつりと言う。
「もうすぐ、ねんちょうさん?」
いすみの手が、少し止まる。
しんいちは背筋を伸ばす。
「そうだね。もうすぐ年長さん」
「…ここ、できるかな」
その瞬間、四月の玄関がよみがえる。
名札を胸に当てて、鏡の前で首をかしげた小さな背中。
いすみは、ここを抱きしめた。
「できるよ。だってこの一年、怖いって言えたし、泣いても最後まで走ったし、ごめんねも言えた」
しんいちはうなずいて、ここを包むように手を重ねる。
「できる。焦らなくていい。でも、ちゃんと進める」
ここは二人の顔を見て、こくんとうなずいた。
「じゃあ、ここ、ゆっくり、がんばる」
家族は、時々喧嘩もする。
靴下も片方なくなる。
サプライズもバレる。
でも、その全部を笑いに変えながら、季節を越えていく。
窓の外、風が少しだけ春の匂いを運んできた。
四月が、もうそこまで来ている。
ここは年中さんの一年を抱えて、次の名札へ背伸びをした。
そして、しんいちといすみは思う。
――この一年の主役は、間違いなく、この小さな“がんばる”だった。
冷たい風の中でも、ここは公園で走った。
転んだ運動会の日から、ここは“転ぶこと”を少し怖がらなくなった。
「きょうは、ころんでも、なかない」
宣言して走り、実際に転び、そして――眉をしかめて、泣かずに立った。
いすみは拍手して、しんいちは「強いな」と言う。
ここは得意げに言った。
「だって、ここ、ねんちゅうさんだもん」
三月。
家にひな人形を飾る日。
ここはお内裏様とお雛様をじっと見て、問いかけた。
「このひとたち、けっこんしてる?」
「そうだね。お祝いの人形だよ」
「じゃあ、ここも、おいわい、する」
桃の花を飾り、ちらし寿司を食べた。
ここは甘酒の代わりにカルピスで乾杯し、しんいちは“それっぽく”うなずいた。
夕飯のあと、ここはぽつりと言う。
「もうすぐ、ねんちょうさん?」
いすみの手が、少し止まる。
しんいちは背筋を伸ばす。
「そうだね。もうすぐ年長さん」
「…ここ、できるかな」
その瞬間、四月の玄関がよみがえる。
名札を胸に当てて、鏡の前で首をかしげた小さな背中。
いすみは、ここを抱きしめた。
「できるよ。だってこの一年、怖いって言えたし、泣いても最後まで走ったし、ごめんねも言えた」
しんいちはうなずいて、ここを包むように手を重ねる。
「できる。焦らなくていい。でも、ちゃんと進める」
ここは二人の顔を見て、こくんとうなずいた。
「じゃあ、ここ、ゆっくり、がんばる」
家族は、時々喧嘩もする。
靴下も片方なくなる。
サプライズもバレる。
でも、その全部を笑いに変えながら、季節を越えていく。
窓の外、風が少しだけ春の匂いを運んできた。
四月が、もうそこまで来ている。
ここは年中さんの一年を抱えて、次の名札へ背伸びをした。
そして、しんいちといすみは思う。
――この一年の主役は、間違いなく、この小さな“がんばる”だった。
