家族会議は、だいたい甘い

四月の朝は、まだ少しだけ空気がくすぐったい。
玄関で、ここは新しい名札を胸に当てて、鏡の前で首をかしげた。

「ここ、ねんちゅうさん?」
「そう。年中さん。もうおねえさんだな」
しんいちはネクタイを結びながら、わざと大げさにうなずく。
「おねえさんはね、ちゃんと靴をそろえるんだぞ」
「…うん!」

言って、ここは片方の靴をそろえ、もう片方を……反対向きにそろえた。
いすみが笑いをこらえて、そっと直す。

「おねえさんへの道は、ゆっくりでいいよ」
「ママ、やさしい」
「パパは厳しいからねえ」
「厳しいんじゃなくて、愛が大きいんだ」
「愛は大きいのに、靴下はよく片方なくなるよね」

ここが「えへへ」と笑って、家族の朝がほどけていく。

幼稚園の門の前で、ここは一瞬、いすみの手をきゅっと握った。
年少のときより少し長く、でも、最後には自分から手を離した。

「いってきます」
小さな声なのに、胸の奥にちゃんと届く声だった。

帰り道。いすみは、ふと思う。
この一年は、きっと“できた”が増える一年になる。
でも同時に、“できない”にぶつかって泣く日もあるだろう。
それでも――。

午後、しんいちは仕事帰りに公園へ寄った。
ブランコの鎖を握るここが言う。

「パパ、ここね、きょうね、あいさつできた」
「すごいじゃないか。何て言った?」
「“おはようございます”って」
「完璧」
「でもね、さいご、ちいさかった」
「小さくてもいい。最初はね、声も緊張するんだ」

ブランコが風を切る。ここが笑う。
その笑い声に、しんいちは今日の疲れをほどいていった。