サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~

「あなたはね、考えずに行動するくらいでちょうどいいのよ」

 開口一番に私を詰り、エージュはぎゅっと抱きついてきた。心配かけてごめんなさいと部屋を訪れた時は、涙ぐんでいたくせに。

「考えすぎて泣くなんて、アリーらしくないわ。考えることはわたくしの担当なのだから、あなたは思うように、好きなようになさい」

 私は、ぽつぽつと説明した。本当のアレクシアのこと。その立ち位置のこと。──ローランのこと。

「本当のアレクシアがどうなっているかなんて、誰にもわからないことよ。もしかしたら、本来のあなたの体に入って、庶民生活を謳歌しているかもしれないわ。ミレイのこともね、サブキャラから成り上がった悪役令嬢に男を奪われるなら、その程度の絆だと思えばいいの」

 そもそも、ローランには悲恋EDしかないんだから、ローランの幸せの為にも悩む必要はないと、エージュは淡々とお説教して──私を励ましてくれる。

「アリー。正直に言うと、わたくし、以前のあなたとの違いがあまりわからなくなっているわ。「本当のアレクシア」も、わたくしに優しかった。少し粗忽なところも、公爵家の令嬢らしからぬところも、あなたと同じ」
「……エージュにはそうでも、お父様とお母様にとっては……私は、本当の娘じゃないわ」
「では、どうするの? 神と名乗った老人が「できない」と言ったことを悶々と思い悩むの? それはね、アリー。自己憐憫という欺瞞だわ」

 容赦なく、エージュは私の逃避を否定する。

「経緯はどうあれ、今、ここにアレクシアとして生きているのはあなたなの。わたくしと本当の親友になったのも、神竜王陛下を召喚したのも、レフィアス様に御名を呼ぶことを許していただいたのも──全部、あなたがしたことよ。それを否定することは、たとえあなた自身の言葉でも、わたくしは許さない」

 薄い水色の瞳が、苛烈な光を宿す。
 逃げるなと。
 自分が決めたこと、自分が選んだ現実を否定するなと──勇気づけてくれる。

「……エージュ」
「あなたは、あなたでいいのよ。あなたのままでいいの。他の誰も、わたくしのアリーじゃないわ」
「……うん」

 エージュの銀髪に顔を埋める。花の香りが淡く立ち上って、私を包んでくれた。

「神竜王陛下に言われたのでしょう、恋情を与えてほしいと。喜んで与えることであって、泣いたり悩んだりしている暇はないはずよ」
「……うん」

 甘える私を優しく抱き返して、エージュは口調だけは厳しく言葉を紡ぐ。

「女神の召喚は、リヒト殿下とシルヴィスが阻止するつもりのようだけれど。女神が召喚されてもされなくても、神竜王陛下の御心を掴んでおけばいいことだわ」
「でも、私、男の人を誑し込んだことはないし」
「わたくしだって、そんな経験はないわ。……なあに、その視線。誓って事実よ、わたくしがそう望んだことはないのだもの」
「それは知ってる」

 エージュが「魔性の女」なのは、男達の勝手な一目惚れのせいであって、彼女の意志は関係ない。

「しっかりなさい、アリー。リヒト殿下達の目論見を手伝うかどうかも考えなくてはいけないのよ。あなたの知識が……」
「エージュ。私、この世界をゲームの世界だと認識できなくなってきてる。言われて初めて思い出すことが増えてるの。言われないと気づかない知識なんて、ないのと同じよ」

 私の告白に、エージュは大きく目を瞠って──頷いた。

「それは、あなたが「アレクシア」と同化しつつあるからではないの? あなたがアレクシアで、アレクシアがあなただということ」
「哲学的なことはちょっと……」
「元々、あなた達は同じ存在だったのではないかと思ったのよ」

 エージュはそう言うけれど。私は、アレクシアをゲームキャラとして認識していた。メタ的な思考ではなく、実際にゲームしたのは間違いない。そうでなきゃ、リヒト殿下やシルヴィスやカインやオリヴィエのルートなんかやってません。ローラン一択です。

「そのことは後で考えましょう。大切なのは、あなたはそのままでいいということよ」

 さらっと殺し文句を告げて、エージュは軽やかな足取りで扉に向かった。ゆっくりと開かれた扉の外は広い廊下で──その向こう側の壁際に、ローランが静かに立っていた。扉にくっついて待ったりしない、そんな心遣いが愛しい。

「神竜王陛下。もう、お入りになってもよろしいですわ」
「……本当?」

 びくっと震えてエージュの様子を窺うのは──仕方ない。私と一緒にこの部屋に来たローランに、エージュは「乙女の会話に殿方は入ってはいけません」と断言して、「そこで待て」と廊下に置き去りにしたのである。──使用人達が行き交う廊下に、たった一人で残されたローランの不安は、おそらく最高潮に達している。

「アレクシア。……もう、大丈夫?」

 なのに、自分の不安より先に、私を気遣ってくれる、優しい神竜王。うん。このローランに悲恋EDは駄目よね。そんなの非道が過ぎるわ。

「ローラン」
「何?」

 室内に入って、私の隣の椅子に腰を下ろしたローランは、テーブルの上の花菓子に目を輝かせている。彼は、甘いものが好きなのです。

「私、絶対にあなたを幸せにする。悪役令嬢だろうとサブキャラだろうと関係ないわ、必要なのは意志よ!」

 半ばは自分に言い聞かせるものだったその言葉に、ローランは。

「私は、アレクシアといられて、既に幸せだ」

 花菓子を選びながら、何でもないことのように答えてくれました。お菓子のついででもいいのよ、ローランがそう思ってくれてることが大事なの!

「……アリー。立ち直ってくれて、何よりだわ……」

 親友の生温かった視線が、少し、冷ややかになった気がするのは、被害妄想だと思っておくことにします。