サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~

 ラウエンシュタインの屋敷に帰りついた私は、一人になりたくて、自室に入った。

封印(シール)

 小さく呟くと、魔法が発動する。──これで、誰も入ってこられない。
 王宮に召された私を、お父様とお母様が心配なさっているとわかってはいるけれど、お話しする気力が、今はない。帰りの馬車の中、ずっと私を案じてくれていたローランの瞳を見つめることも、他愛ない話を続けてくれたエージュに「何でもない」と言うこともできなかった。

 ──そもそも、「私」は誰なの。

 アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタイン。それは、この体の名前。じゃあ、中身は? 私の本当の名前は? そして、本来のアレクシアはどこに行ったの。
 何も思い出せない。わからない。この世界がゲームの世界だという記憶が、本物なのかどうかもわからない。今までがたまたま上手くいっていただけで、本当は、私、ただの二重人格なんじゃないの?

 わからない。
 確かなことは──私が、オリヴィエから「神竜王召喚」の栄誉を奪った事実。この先に召喚されるかもしれない「女神」であるミレイから、ローランを奪おうとしている未来。

「……そもそも、存在しない「悪役令嬢」を作るってことが、間違ってるよね……」

 呟いた言葉は、ぞっとするほど冷えていた。自分の声なのか、誰かの──本当のアレクシアの声なのか、わからなくて、怖い。
 ベッドに倒れこんだ私の耳に、おずおずと扉を叩く音が聞こえた。……嫌だ、今は誰にも会いたくない。
 封印の魔法をかけてあるから、放っておいてもいい。でも、扉を叩いている相手は、諦めるということをしないで、一定の間隔で、ノックを続けたから、私は思わず答えていた。

「一人にして!」

 途端、扉を叩く音は止まった。代わりに、扉を開けようとするけれど、封印の魔法がそれを阻止して──

無効(ディフィーザンス)

 澄んだ声は、人には叶わない魔力に満ちていて。
 私の魔法を簡単に無効化し、扉が開かれる。
 そこに立っているのは、予想通りであり、予想外の相手──ローランだけで。

「……王の姫が言った。そなたが望むなら、近づかぬと」

 ゆっくり私に近づきながら、ローランは言い訳するように言葉を探す。

「だが、私は……」

 ベッドのすぐ傍に跪いて、私の手を取った。

「……アレクシアを、一人で泣かせたくない」

 泣いていないのに。涙は堪えていたのに。
 私は──この手に甘えていい立場じゃないのに。

「……わた、し」

 そんな名前なの? 私は誰?

「アレクシアは、アレクシアだ。とても優しい。とても綺麗だ。そして、あたたかい」

 握っていた手に、力が籠められる。

「何が不安? 何が恐ろしい? 私を召喚して、信頼で繋がっても、まだ怖い?」

 黙った私に、ローランは少し笑った。私の我儘に困っている、と言わんばかりに。

「敬意でも信頼でも足りないなら──アレクシア。あとは、私が与えられるものは、愛と狂気しかない」

 けれど、まだ私達は恋をするにはお互いを知らなさすぎる。

「だからアレクシア。私に、恋情を与えてほしい」

 あどけないほどの微笑みで、ローランは私にそう言った。