サブキャラ令嬢ですが、神竜王陛下を溺愛させて幸せエンドにします! ~ヤンデレ親友と同盟して、悲恋ルートを全部へし折ります~

 金色の髪をひとつに束ねたオリヴィエは、伯爵家の出だけあって、礼儀作法は完璧だった。室内にいる人物のランク付けも早い。上から大神官様、リヒト殿下、シルヴィス、私、カインだ。大神官様を王太子の上にしたのは、神官なら当然だと思ってたけど、国王陛下の叔父君でもあるなら、更に納得できる。
 全員にきちんと礼をして、オリヴィエは大神官様に向き直った。厳かな気品を湛えた大神官様は、私を手招くと、オリヴィエに紹介した。

「オリヴィエ。こちらは、ラウエンシュタイン公爵令嬢、アレクシア・クリスティン姫じゃ。姫は、未来視のお力を授かっていること、そなたも存じておるな?」
「はい。未来視なのか、元々ご存知なのかは、測りかねますが」

 ……その言葉と表情に、すっと、全身が冷えた。どういう意味……?

「オリヴィエ」

 大神官様が窘めようとしたけれど、オリヴィエは皮肉な微笑みで私を見ている。俺様で高飛車な性格は、そのまま健在のようね。

「姫の未来視は、極めて局地的です。バシュラール侯爵家のことは──王太子殿下の御前では憚られますが、一部では口さがない者達が噂していたことでもある。そして、婚姻や出産について未来視を得られたのは、王家、ラウエンシュタイン家以外では、ナルバエス大公家、イルディシア伯爵家の血縁に限られる」

 これは事実だ。だって私の知識は、攻略キャラ達に関わることに限定されている。あとは、ヴェルスブルク国年表史に書かれていた重大事だけだ。

「それ、は……」
「未来視と言うが、結婚などは使用人達の噂から推測できる。出産もです。性別など、二択しかない。そして姫が言い当てたのは三名の御子。……三連続で言い当てるくらいは、奇跡とは言えませんね。偶然の範疇です」
「オリヴィエ。控えよ。アレクシアは、間違いなく未来視の力を持っている」

 リヒト殿下が、するりと私の前に立った。え、どうしてここで庇ってくれるの?

「エルウィージュの出生。それは公然の秘密であったやもしれぬ。だが、それを暴き立てて、アレクシアに何の得がある?」
「美貌で名高いバシュラールの令嬢を、殿下の妃候補から外せましょう」

 カインが疑っていたことと同じだ。──この分だと、他にもそう考えている人達はいる。屋敷に戻ったら、エージュに相談して、すぐに対策すべきだ。

「では、エルウィージュの自殺未遂は?」
「言いにくいことですが、バシュラールの令嬢と#謀__はか__#ったなら、可能です」
「オリヴィエ・ステファニアス。よくも我が妹と、その恩人を侮辱した」

 怒気を強め、剣を抜こうとしたリヒト殿下を、シルヴィスが慌てて止める。

「止めるな、シルヴィ。私の前で、私の妹は自殺未遂をして周りを#謀__たばか__#ったと言ったのだぞ」
「落ち着け。──オリヴィエ。言葉を慎め」
「そうおっしゃるということは。ナルバエス大公令息は、僕の言葉に納得なさっている」
「シルヴィ!?」

 クールな美形のはずが、リヒト殿下は怒りで紅潮したり、不安で青くなったりと忙しい。その様子を見ていると、私は逆に落ち着いてきた。

「シルヴィス様も、オリヴィエ様も、私をお疑いなのですね。構いません、どう思われようと」

 事実だ。彼らに疑われたところで、私の恋には関係ない。オリヴィエにはローランを召喚してもらわなきゃならないけど、私を信用できないと言うなら、それはそれで構わない。ローランのバッドルートだけでみられる、彼のお気に入りの場所──王宮の神泉の傍の木陰で、偶然再会してやるわ。

「ですが、私を信じて下さらない方に、神竜召喚をお願いはできません。信頼関係もない相手に、この輝石の魔力を委ねることはできませんから」
「神竜召喚……!?」

 この一言で、オリヴィエが釣れた。でもいい、もうあんたはいらない。よくもエージュを侮辱したわね、許さない。
 竜オタクでなくても、知っている。竜の中でも最高位に位置する神竜。その召喚の成功例は、世界中の歴史を辿っても片手の指で足りることを。

「シルハークからの宣戦布告まで、あと十月(とつき)もないと私は未来視しました。神竜に助力願う為には、神竜との信頼関係も必要です。ですから、せめてあと三月のうちに召喚していただきたい。そう思って、国王陛下に無理を申し上げましたが──残念です、オリヴィエ様。私は、あなたが召喚して下さると未来視したのですけれど」
「僕が……神竜を?」
「はい。ですが、所詮は紛い物と疑われる程度の未来視ですもの。信じて下さらぬ方に、この輝石の魔力を委ねるくらいなら、私自身が神竜を召喚します」

 勢いで言い切った。ごめん、エージュ。だけどね、オリヴィエとシルヴィスの「未来視とか(笑)。そんな嘘に騙されるかよ(笑)」って顔が、超ムカつくのよ!

「姫。本気でおっしゃっておいでか」
「大神官様。私、召喚魔法の心得はございません。それでも、あと三月の間に、神竜召喚の呪文を唱えられるようにならなくては。魔力は、輝石に蓄えてあります。知識を、お授け下さいますか」

 驚きながらも、大神官様は私の決意を測るように問いかけ、私は真剣に答えた。今後の展開を狂わせる大博打になるけど、やるわよ。ローランが「召喚されたい」と思うタイミングは、三ヶ月後。その時に、途切れ途切れでもいいから、召喚魔法を発動させられればいいんだから。

「……よろしいでしょう。この老骨が、姫にお教え致しましょう。オリヴィエは下がってよろしい。王太子殿下、シルヴィスも外して下され」
「大神官様。私は姫の護衛を命じられております」
「シュラウス将軍は、そちらで石となられるがよい。ここで見たこと、聞いたこと、委細漏らさぬように」

 そう言うと、大神官様は合図のように袖を振った。瞬間、私とカインと大神官様、リヒト殿下とシルヴィスとオリヴィエの間に、光の膜が生まれる。

「大叔父上!?」
「リヒト殿下は、姫を信じておいでゆえ、残っていただいてもよかったがの。殿下が残られては、シルヴィスは引きますまいからな」

 ……おおぅ、大神官様にまで認識されているのね、シルヴィスのリヒト殿下愛……。

「殿下。お下がりあれ」

 その言葉に、リヒト殿下は気遣わしげに私を見た。うん、私に悪印象を持たれたくないのよね、エージュに嫌われたくないから。

「大丈夫です、殿下。お心遣い、嬉しく思います。先程のことは、エージュには話しません。これ以上、彼女を傷つけたくありません……」

 最後は消え入りそうな声で告げて、私は顔を伏せた。リヒト殿下は、淡い翡翠の瞳で、オリヴィエを睨みつけた。

「……オリヴィエ・ステファニアスの処遇は?」
「オリヴィエ様のお気持ちもわかります。もちろん、それに同意なさったシルヴィス様のお気持ちも」

 オリヴィエだけじゃないわよ、シルヴィスもよ。
 きっちりそのことを指摘して、私は微笑んでみせた。

「国王陛下と宰相閣下にお伝え下さいませ。未来視で、召喚者の姿がはっきりとわからなかったのは──それが、私自身だったからかもしれませんと」

 ──もう、後に引けない。
 だけど、召喚者の協力者より、召喚者本人になった方が、ローランとの距離は近い。なら、やってやるわよ!