婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで

 数日後、ミラジェーンは数名の令嬢らと茶会に興じていた。

 リサーナ侯爵令嬢が主催する、親しい者のみを招いた茶会であり、ミラジェーンの社交パーティ主催を労う場でもあった。


「……というより、皆様は先日のパーティメニューが目的ではなくて?」


 ミラジェーンが苦笑すると、リサーナはにこりと微笑んだ。


「当然です。それに、エリオット様とエース殿下とどうだったかもお聞かせくださいませね」

「リサーナ様、下心は下に隠すものでしてよ? お土産はお持ちしましたけれども」


 ミラジェーンが振り向くと、侍女が進み出て、パーティで用意された軽食とデザートの一部がテーブルに並べられた。

 令嬢たちが歓声を上げ、ミラジェーンは口元をわずかに緩めた。


「皆様が喜んでくださって嬉しいですわ。私にもいただけますか。当日はあまり口にできませんでしたの」


 リサーナが「もちろんですわ」とうなずくと、侍女が素早くミラジェーンの分を取り分けた。


「やはり主催ともなると、お忙しいのですね」


 別の令嬢が眉を下げたが、ミラジェーンは視線を外し、静かに首を横に振った。


「いえ……それはもちろんそうなのですが、お恥ずかしい話でして、コルセットがいつもよりきつく、口にできませんでしたの……」


 令嬢たちは一様にはっとして顔を上げた。

 彼女たちはミラジェーンがパーティで着用していた新しいドレスがオリン公爵夫人から贈られたものだと、当然知っていた。


「さ、サイズがあってませんでしたの?」

「……いえ。ドレスを作っていただく際に、『主催なのだから、今後のためにもより美しく仕上げねば』とウエストを細めに仕立屋に指示なさっていたんです。靴のヒールもいつもより高くて。その分今日のドレスはゆるめの作りですけど、お許しくださいませね……」


 いつもはまっすぐに伸びているミラジェーンの背が、かすかに丸まっていた。

 その様子に、令嬢たちは衝撃を受けた。


「オリン公爵夫人は厳しくていらっしゃいますのね」

「ミラ様、オリン公爵夫人にはウエストを絞られ、ブライズ侯爵夫人には財布の紐まで絞られましたのね」

「うまいこと言わないでくださいまし」

「それだけミラ様に期待してくださっているということですわね」

「そうですわね。この程度のことで根を上げてはブライズ侯爵家の名折れですわ」

「それはそれとして、こちらのクリームがふわふわで美味しいですわよ。ミラ様もお召し上がりになって」

「リサーナ様ったら、用意したのは我が家の料理人でしてよ? 当然ではありませんか」


 ミラジェーンがなんとか持ち直し、リサーナが場を明るくしたところで、令嬢たちは再び話題を変えた。


「今回のパーティではエリオット様もご一緒でしたわね。ファーストダンスも素敵でしたわ」

「その後の殿下とのダンスもなかなかでしたわね……でも、エリオット様は嫉妬なさいませんの?」

「エリオット様はご友人へのご挨拶に向かわれておりましたので、私が手持ち無沙汰にならぬよう、殿下がお気遣いくださったのですわ」


 ふと、ミラジェーンはエースがいつも自分を気遣ってくれていることに気づいたが、顔にも言葉にも出さなかった。

 次に会った際には礼を忘れぬようにしようと、それだけを胸に留めた。


「まあ、相変わらず殿下はお優しいわね。でもエリオット様もその後はずっと一緒に挨拶されていたでしょう? お付き合いくださるなんて」

「それほどでもありませんよ、美しいレディ」