わたしのお兄ちゃんこと藍原静流は、高校2年生。
高校生になると同時に、「寮に入るから」といって家を出てしまってから、お正月や夏休みなど、長期休みにしか帰省してこない。
わたしは自他共に認める「お兄ちゃんLOVE」で、反抗期の時もお兄ちゃんだけは全然OKだった。
お風呂も一緒に入れるし、嫌悪感なんてほとんど抱いたことない。
ついこの前、元旦に会った時はちょっとだけ冷たくなった気がしたけど、すぐあの尖った声で「伊乃莉」と呼ぶ声が懐かしくて、思わず胸に飛びついた。
───そんなお兄ちゃんが、アイドル?
しかも、天下のネクプロ。
倍率は意味わからない桁だし、実力主義のネクプロに、入った?
よくわからない感情が、込み上げてくる。
15年生きてきて、こんな感情はじめて。
言葉に言い表せないけれど、ただひとつ言えるのは「嬉しい感情ではない」ということ。
ぐちゃぐちゃしていて、そこにいろんな感情が混ざっていて───色んな色を混ぜてどす黒くなった、絵の具みたいな。
使い終わったパレットに残った絵の具を溶かした、水の色のような。
あぁ、そっか。
「わたし、お兄ちゃんを誰にも取られたくないんだ…」
幸い、お兄ちゃんは男子校に入っていたから、彼女とかそういう話題は家庭内では出てこなかった。
でも、お世辞だとか、妹目線抜きでお兄ちゃんは「かっこいい」と思う。
…他校に彼女がいても、全然おかしくないし。
中高一貫の男子校だからよかったけど、小学校の頃はお兄ちゃん、下駄箱にラブレターが入ってたこともあったし。
余計なおせっかいだ。
「アンチに何かされてお兄ちゃんに危害が及んだら」「お兄ちゃんの魅力が全世界に発信されるなんて」
───お兄ちゃんの夢を、応援できないなんて。
最低な妹だと分かっていながらも、現実を受け入れられなくて。
手からスマホがするりとぬけて、毛布に着地する。
あんなに出ていた手汗も、すっかり冷えていた。



