オンラインゲーム『ラピスラズリ』


タクマはログアウトしたのか、画像が薄くなって消えた。
画面に浮かんだ3つのフォルダー。
『運命の歯車を狂わせた』その意味が分からない。
きっと、晴のメモが関係している。
嫌な予感がした。見たくない。
自分の区切りのついた想いを覆すような内容が書いてあるのだとしたら……
また、晴を好きになる?ありえない!あってはいけない……
逃げても良いでしょ?もう、私はヒロインでは……

『君をヒロインに選んだのは、接触が欲しかったから。』

狡い。酷い。委ねられた決定から、逃げたくないと思ってしまう。
私の名は未來、見つめるのは先の事。
私は『預かったメモ』のフォルダーをクリックした。四つ折りになった紙が、画面に現れる。
それをクリックすると、開く音と共にゆっくりと広がるメモ。

『未來へ。数日前に、委員会で遅くなった俺を待っていて、寝てしまった時の事を覚えているかな?実は俺、起こす前に未來にキスをしたんだ。ごめん。知られるのが怖かった。それを木口に見られていたみたいで、黙っていてもらう条件で付き合う事になったんだ。』

紙は、スキャンしたのか何度も消した跡がある。
小さなメモに文字を書いては消して、伝えたい事をまとめて収まり切らない、必死さの伝わる物。
キス……晴への想いがあった時、晴の想いも私にあった事を知る。
湧き上がる感情。葛藤……自分がした事としなかった事が、せめぎあう。
心苦しく、過去の記憶がグルグルと回る。
そして、冷めた感情が最後に残っていることに気づく。
私は、机の上に置いていた雪だるまのヌイグルミを手に取って立ち上がる。
ゴミ箱の上に持って行き、手を離した。
カラッポのゴミ箱の底に当たって、軽い衝撃音が聴こえる。
そう、私は過去に晴からのメモの入った雪だるまのヌイグルミを捨てた。記憶から消していた物。
手に戻ったのは、タクマが拾ってくれたから。
メモの存在も、タクマが教えてくれた。
そして、肝心の晴が私にメモの確認をしたのは最近の事。
私に知られるのが怖かった?そうね、今なら分かるわ。好きではない人からのキス。
そんな現実を告げられて、私にどうしろと言うの?
『運命の歯車を狂わせた』と言うけれど……
タクマがメモを拾った時点で、終わっていたのよ。
自分が捨てたの、恋を失った悲しみに耐えられなくて、辛くて逃げた。
卑怯者の結末に相応しいんじゃないかな。
もしも……?そんなのは意味がない。後悔しても、現在は変わらない。
そうね、もしも……もし、私がその場でメモを見ていたら。晴を取り戻せたかもしれない。
227メモを見た私は、記憶にないキスに喜び、二人の後を追いかけて走って……想いを告げただろう。
“今”が、変わっていたかもしれない。
悲しみに暮れず、独創サイトにも逃げずに、タクマとの出逢いもヒロインになることも無かった。
現在のヴァリエーションを垣間見て、意味のない音は心にふれず……
ただの騒音…………