壊れて行く君へ、     壊したい僕へ

 俺には、彼女がいる。まっすぐで、誠実で、俺にはない優しさを持っている子だった。
 でも最近、彼女の笑顔が作り物みたいに見える。
 俺のことを疑って、怯えて、勝手に傷ついて――その顔が、どうしようもなく愛おしい。
 あぁ。そうだ。このままずっと、ずっと、じわじわと。壊れていってくれ...。

「○○遊ぶ約束があるから、いってくるね。」
「...んで」
 俺は、彼女を心配させないように言っただけ。疑わせないように教えただけ。なのに。彼女の声色は、怒りに震えたようだった。
「なんでよ!婚約してるし、結婚間近なのに...18歳になったら結婚するって約束したじゃない!」
 秋の夕日で真っ赤に染まった空がほんのりと映る彼女じゃ、怒りに満ちあふれていて、とても神秘的だった。
 あぁ、そうだ、そうだ!そのまま壊れろ!俺の演技にだまされろ!
「え...?なんでって?」
 さすが俺、迫真の演技。そうだ、勘違いしろ。俺に罪はないんだ!
「わ...私のこと、一番大事って言ってくれたじゃない!:
 ...は?何を言っているんだ?一番大事?そんなこと確認しなくたって、君が一番分かっているはずだ。
 すっと演技する意味を感じなくなり、真顔になった。
「好きだよ。君が大好きだ。君以外に好きな女なんかいない。:
 当たり前だ。なのに、彼女は憎い相手を見るような...敵を見るような目をしている。
「だったらどうして!」
 家中に響く、大きな声。温厚な彼女が、出せるはずのない声量。あぁ、俺は間違っていなかった。
「え...?どうしてって...。俺は、嫉妬でぐちゃぐちゃの君が見たいんだよ。ただそれだけさ」