Fランいくこだれだ

むかしむかし、とある町に、遊ぶことが大好きで勉強が大きらいな
タケルくんという子どもがいました。
机の上にはゲーム、漫画、お菓子。
教科書はいつもランドセルの奥で、眠ったままでした。
「ちゃんと勉強して将来は有名な難関大学行かないと、大変なことになるのよ」
「中学受験する子はタケルが遊んでる時も一生懸命勉強してるのよ」
「今ちゃんと勉強する習慣身につけとかないと、中学・高校になった時にますます勉強についていけなくなって後悔するのよ」
 お母さんから度々こんな小言を言われても、
「今やらなくても大丈夫。難関大学なんて行かなくても、Fランでも生きていけるよ。ボクの担任の先生もFラン卒だもん」
 タケルくんはこんな言い訳ばかりするのです。
 そのたびに、タケルくんの部屋の机の下で、こつんと音がしました。
 でも、タケルくんは全然気にしませんでした。


 ある夜、時計が深夜0時を打ったころ。
 タケルくんがいつものように夜更かししてベッドに寝そべりながらゲームをしていると、背後の机の椅子が――ぎぃ、と音を立てました。
 そこに座っていたのは、ぼさぼさの髪、青白い顔、四角い眼鏡、
血のように赤い服を着た、ノートと赤ペンを手に持った太った恐ろしい風貌の魔物。
「だっ、誰だよ、おまえ?」
 驚いたタケルくんはびくびく震えながら問いかけます。
「はじめまして。ぼくの名前は、ふーみん」
 ふーみんは、にやりと笑いました。
 その笑顔は、テストで零点を取ったのを見たときのお母さんの呆れた表情よりもずっと冷たく、痛かったのです。
「きみが“やらなかった一時間”
 きみが“逃げた一問”
 ぜんぶ、ぼくは知ってるよ」
次の瞬間、部屋の壁がゆらりと歪み、そこには大人になった自分の姿が映りました。


やりたい仕事に手が届かず、
「もっと勉強しておけばよかった」と呟く大人のタケル。
 映し出された未来の自分は、薄暗い部屋で、山のような後悔に埋もれています。
 すると、ふーみんが耳元でささやきます。
「ほらね。難関大学に行こうと努力しなかったきみは、Fランにしか行けなくなって一生、後悔の宿題を解き続けるんだ」
 そして、赤ペンで空中に大きな×を書きました。
 その先の映像も、止まりません。
・大学名で書類選考から落とされる就職活動。
・「学歴不問」と書かれた最低賃金の求人に縋り付いても落とされ続ける大人のタケル。
・対照的に、一生懸命勉強した同級生達のSNSに並ぶ一流企業での昇進・結婚・海外赴任などなど幸せそうな輝かしい日常の報告の数々。
「努力しなかったきみは、将来選べない人生を生きるんだよ」
 ふーみんはほくそ笑みました。
「もうやめろおまえ。やめてくれ、やめろぉ~!」
 タケルくんが目を覆って叫んだ瞬間、朝が来ていました。

 夢だったのでしょうか?
 けれど机の上には、開かれたノートと、赤ペンで書かれた一言。

『今日の一時間の勉強が、今日の一問を解くことが、未来を輝かしいものに変える!』

 それ以来、タケルくんは遊ぶ前に机に向かうようになりました。
 ふーみんは、真面目に勉強する子の前には――もう、現れないのです。
 でも今も、勉強から逃げ続ける子の夜の机には、そっと椅子が引かれているかもしれません。
 
 ぎぃ……。