「オレ、美味しい中華料理店知ってるの!」
「そうなのね! 連れて行って、羽矢斗さん」
「仕事の出張でね、この辺りに来たことがあって1回行ったっきりだった。結莉ちゃんとデートで行けるなんて嬉しいな」
運転している羽矢斗はドキマギしてしまうほどカッコいい、と何度も羽矢斗の横顔を見つめる結莉。
そして街中へ向かって行くので海が見えなくなって行く。結莉の視線は、羽矢斗と海を行ったり来たり忙しい。
*
さあお目当てのお店に到着だ。
「お待たせ~。着いたよ! 結莉ちゃん」
「うんっ」
結莉のおなかも丁度減って来た。
ボリューミーな料理が数々載ったメニューに食い入る二人。
そして結莉が言う。
「あたし! チャーシュー麺を戴きます。あ、ここはあたしにおごらせてくださいませんか? 羽矢斗さん」
「ン。気にしない、気にしない。結莉ちゃん、今日のデートは全部オレに任せて欲しいよ。……じゃー、いつか結莉ちゃんの手料理を振る舞ってくださいよ」と言うや否や「あ」と付け加え、顔を赤らめる羽矢斗。
そうね、だってそうするには……結莉が羽矢斗のお部屋を訪ねるということになるものね!
「ええ……。羽矢斗さんさえよろしければ、お料理を作ってさし上げたいわ」
伏し目がちに結莉が答えた。
そこへ接客係の人がテーブルにやって来た。
羽矢斗は少し考え「チャーシュー麺1つと……ン~と、オレは……天津飯と油淋鶏とミニラーメン」
「そんなに!」
つい注文の途中に声を上げてしまう結莉。ニッコリ笑う羽矢斗。
メニューを読み上げ「よろしいでしょうか?」と接客係。
「はい」と羽矢斗。
向かい合わせで座っている二人。少し黙って見つめ合う。
「楽しいな」
結莉が言った。
「オレもだよ、結莉ちゃん」
暫くすると注文の品々がテーブルへやって来た。
「わー! いっぱい。羽矢斗さん、よっぽどおなかが空いていたのね。それにしても……こんなに一気に食べちゃうんだ!」
結莉が言う。
「アハハ。オレね結莉ちゃん、けっこう食べるんだよ!」
「じゃあ、あたしもお料理のし甲斐があるわ」と口をついた時、結莉はハッとし、斜め下に視線を伏せた。
二人は甘いムードをかもしつつ「いただきます」とごはんを食べ始めた。
突然「オレの家……今日、来る? 結莉ちゃん」と羽矢斗。
結莉はそれに対し、先ほどの会話の流れから「あ! お料理の心づもりがなかったわ!」などと頓珍漢なことを言っちゃった。でもすぐに気づいた。
(違うよね……。やっぱり……。だって……二人きりの密室……)
たくましい妄想が止まらぬ結莉。
「結莉ちゃん」
羽矢斗の情熱的な瞳は真剣な表情をした。
「はい」
レンゲで掬ったチャーシュー麺のスープを結莉はゴクリ。
「オレのそのまんまを見せたいの。でも、お部屋は片付けたよ。あ……あの、結莉ちゃんに来て欲しくて。でも、もちろん無理強いはしないからね。大丈夫だよ。江の島を回っても良いし」
結莉は……羽矢斗にもっともっと近づきたい。溶け合えたらどんなに素敵だろうと思った。
「羽矢斗さんのお家に行く」
「うん、わかった」
そんなラブリーな会話のあと、二人は中華料理の続きを堪能した。
*
「今日は道が空いてて走りやすいや」
「そうなのね、羽矢斗さん」
「うん。平日でも混む日は混むからね~」
すでに二人は高速道路で東京へ向かっている。
心臓の音を羽矢斗に聴かれているような気がして、湘南を目指した時よりも帰りはさらに妄想が膨らむ結莉。窓の外の景色もあんまり目に入らない。今向かっている羽矢斗の部屋の様子を想像している。
(きっと黒が基調で……差し色には赤とか鮮やかな色が使われていそう。ヒョウ柄グッズもあったりして? うんうん、羽矢斗さんに似合うもん)etc.
そして……無論、ベッドに転がって生まれたままの姿になっている二人の映像も頭から離れない。
信号待ちの時、そんな空想でフワフワの結莉に向かって「結莉ちゃん」と声がした。
「……あっ、はい。羽矢斗さん」
羽矢斗は結莉の真っ直ぐな髪を撫でた。そして「とても好きだよ」と言った。
胸キュンで気絶しそうな結莉である。ますます一つになりたい願いが高まる。
(羽矢斗さん、襲ってね♡)などと結莉の中で小悪魔・結莉の声がした。
髪を撫でられた結莉は答えた。
「あたしもよ。羽矢斗さんが好き」
そして、先ほどの小悪魔がおさまらず、こんなことを言ってみた。
「ねえ、羽矢斗さん?」
「ン? 結莉ちゃん」
「今……なにを考えているの?」
羽矢斗は、ちょっぴり恥ずかしそうにしながら「たぶん……結莉ちゃんと同じこと」と言う。
(キャ! どうしよう……。そうよ! きっときっと、一緒だわ)
結莉はなんとも積極的に、羽矢斗の左の太腿を人差し指でなぞりつつ、小さく「うん」とだけ返事をした。
帰りも約1時間ぐらいで高速道路をおりた。そこから30分もかからぬうちに「もうすぐオレの家に着くよ」と羽矢斗。
「はい」
結莉は羽矢斗の暮らす街並みを胸に焼き付けるかのよう、好奇心旺盛にキョロキョロと眺めた。
結莉の自宅がある最寄り駅の隣街だが、訪れたことのない街。電車で通ったことはあるけれど。
(羽矢斗さんはこのコンビニに寄ることもあるのかな?)(ああ、ここが駅だから、この辺をたぶん歩くのね)などなど、羽矢斗の普段の生活を想像するだけで嬉しくなる。
羽矢斗はもの静かな人物だ。結莉と話す時も、語り出すと長い結莉の話にじっくり耳を傾ける聴き上手。
結莉は、こんなに理想的な恋人が出来たことを改めて、夢なんじゃないかと未だに思う。しかし喜ばしいことに、これは現実だ。
――――午後2時前には羽矢斗の家に到着した。
「このマンションだよ」と羽矢斗。
マンション前のパーキングに車をバックしつつ停める。
そして……エンジンが切れた静けさ。
この後の色々が想われ、息が止まりそうになる瞬間だ。
「結莉ちゃん、行こうか」
「うん」
助手席まで来てドアを開ける羽矢斗。
腕を組み歩いて行く二人。結莉の、羽矢斗のお家・初訪問!
エントランスに入り、エレベーターに乗った。
「凄く……ドキドキしてるの、あたし」
声に出さなきゃ倒れちゃいそうで、結莉は口にした。
「オレもだよ、結莉ちゃん」
そっと結莉の肩を抱く羽矢斗。
羽矢斗の部屋は6階だ。
エレベーターをおり、手を繋ぐと、羽矢斗の奥底から熱いものが伝って来るようだ。
(髪の毛を結ぶゴム……持って来て良かった)などとエッチなことばかり想い巡らす結莉。羽矢斗とバスルームで楽しみたいのだ。
「結莉ちゃん、ここだよ」
605号室。最上階の角部屋だ。
「どうぞ」
「うん」
少し廊下があり、リビングに通された。
結莉はびっくりした。羽矢斗の部屋は、車の中で思い描いた通りのムードだったから。
ファブリック類や小物類は黒が多く、赤いクッションとヒョウ柄のクッションがあった。
羽矢斗を理解し始めている自分は『彼女合格』かな?! とこっそり喜ぶ結莉。
「コーヒー淹れるね! 結莉ちゃん。ホットとアイスどっちが良い?」
さっそく結莉をもてなす羽矢斗。
「ンー、アイスが良いです。ありがとう、羽矢斗さん」
「オッケー。すぐ淹れるよ。そこのソファーに座ったら良いよ」
「はい」
ソファーは、テーブルを挟んで1人がけ用と2人がけ用とあった。
結莉は……(羽矢斗さんとくっついて座りたい!)と思い、2人がけ用に腰かけた。
「お待たせ」
羽矢斗が、アイスコーヒーの入ったグラデーションを帯びるピンク色の素敵なグラススを、持って来た。
羽矢斗は……結莉の隣に、座った。
ナチュラルにキス……。
(羽矢斗さんの、体の香りがする……。香水とかじゃなく男の人の良い匂い……)
めまいを起こしたかのように身を預ける結莉。
アイスコーヒーの入ったグラスが汗をかいている。
二人は互いの服を夢中で脱がせ合った。
羽矢斗は結莉をお姫様だっこし、ベッドルームまで連れて行った。
「綺麗だよ……結莉ちゃん、凄く……綺麗だ」
「嬉しいわ、羽矢斗さん」
二人はやっと身も心も蕩けながら一つになった。
もちろんバスルームでも、愛を与え合った。
――――もうすぐ夕方5時。
「あ、あたし……そろそろ帰らなきゃ。ごめんなさい、羽矢斗さん」
「なにも謝ることじゃないよ、結莉ちゃん。皐月ちゃんを一番大事にしてあげようね」
その言葉を聴いた時、結莉は涙ぐんだ。嬉しくて、感激して。
「羽矢斗さん、優しいから大好き!」と羽矢斗に抱きついた。
「当然のことだよ。オレは結莉ちゃんだけじゃなく、皐月ちゃんのことも大切に思っています」
「ありがとう、ありがとう」
ベソっかきの結莉だ。
「泣かないの、結莉」
「あ、呼び捨てしてくれた!」
結莉の涙がちょっと止まった。
「ごめん、嫌じゃない?」
「嫌なんかじゃないよ、あたしも……羽矢斗って呼んでも良いですか?」
「うん、もちろん」
二人はアイスコーヒーを飲み干していた。羽矢斗がもう一度アイスコーヒーを淹れようとした。
「あたしがやるわ」
結莉は、羽矢斗の細やかな優しさに応えたい。尽くしたい。
「良いんだよ、結莉ちゃん」
「ううん、彼女らしいことをさせてください」
羽矢斗はまた結莉を痛いほど抱きしめ「わかった」と言った。
香ばしいコーヒーの香りがリビングいっぱいに広がる。二人は、再びアイスコーヒーでのどを潤した。甘い空気に包まれている。
「コーヒーを飲んだら行こうね。送るよ、結莉」
「うん」
(皐月、帰ってるかなー。ハンバーガーを今頃食べてるかな……? まだ帰っていないかな?)
車に乗ると、ママモードが強めになって来た結莉。
丁度その瞬間「皐月ちゃん、ごはん、大丈夫かな?」と羽矢斗。
「ああ、ウフフ。羽矢斗さん、あの子ね、久しぶりにハンバーガーの宅配を頼むって言ったから食事代を渡しているの」
「そか。たまに無性に食べたくなるよね! ハンバーガー」
「うん、あたしもある!」
羽矢斗のマンションから結莉のマンションまで車でほんの20分くらい。
今は二人の交際を皐月に秘密にしているので、皐月の通学路を避け、マンションからちょっぴり離れた曲がり角でお別れ。
「今日は本当にありがとう。海が見れて幸せだった……。羽矢斗と……溶け合えたことも、とても幸せです」
「結莉……」
たまらない、という感じで興奮気味に羽矢斗は結莉にくちづける。でも、懸命に情熱を抑えるように「皐月ちゃんのために早く帰ってあげようね、結莉」
「はい」
そうして、運転席をサッとおり、助手席のドアをスマートに開ける羽矢斗。
「電話するからね、結莉。結莉も電話ちょうだいね」
「うん、運転気を付けてね、羽矢斗」
「うん、ありがと」
離れがたい磁石を自分たちの力で精一杯引き離す。それぐらい互いが愛おしい。
羽矢斗の車が曲がり角を曲がるまで見送った結莉。
*
「ただいまー」
玄関前でスマホを見ると、時刻は5時40分だった。
「ママ、おかえり~。ポテト美味しいー!」
(そうか、サイドメニューももちろん頼むよね)と想いつつキッチンへ駈けて行く結莉。
実に満足げなホクホク顔の皐月がそこに居た。それと食べかけのハンバーガー。
(わわわ! それ以外に3つもあるじゃん!?)
さすがに食べ過ぎでは、と驚愕する母親。
「あ! ママ、目を丸くしてる、アハハ! ママのも一応買っておいたのよ」
「な~んだ、そうだったの! そういえば、ママ、ハラペコだよぉ」
「そうなの! ママ、一緒に食べよ。ナゲットもあるよ」
「うん、うん」
楽しい親子のハンバーガーパーティーは和気あいあいと続く。
「ねぇ、皐月? 皐月のお誕生日さ、外食しようよ!?」
「わ! 嬉しい。どこ行くの? ママ」
「うん、『ローザ・フェルグ』という素敵なレストランだよ!」



