腹黒王子の愛は、激甘でした。

あれからあっという間に月日は流れ、先輩たちとのお別れの日が迫っていた。

春の空気は、少しだけ切なくて、でもどこか優しい。

校庭に並べられた椅子。

風に揺れる桜。

そして──今日は、卒業式だった。

「……ついにこの日かぁ」

ぽつりと呟きながら、私は胸の奥がじんわりするのを感じていた。

颯汰先輩と、廉先輩。

大好きで、大切な2人が、この学校を卒業してしまう日。

「優、大丈夫?」

隣にいた明日華が心配そうに覗き込む。

私は小さく笑って頷いた。

「うん……ちょっと寂しいけど、大丈夫」

(ちゃんと、笑って送り出さなきゃ)

そう思って顔を上げると、ちょうど卒業生たちが入場してくるところだった。

その中に──見慣れた2人の姿。

颯汰先輩は相変わらず堂々としていて、どこか大人びた雰囲気をまとっている。

廉先輩は、少しだけ柔らかくなった表情で周りに軽く手を振っていた。

(ああ……ほんとに卒業しちゃうんだ)

胸がぎゅっと締めつけられる。

* * *

式が終わり、校舎の前は在校生と卒業生で賑わっていた。

花束を渡したり、写真を撮ったり、あちこちで笑い声と涙が混ざり合っている。

私は人混みの中で、ずっと探していた。

「優」

聞き慣れた声に振り向くと、そこには颯汰先輩が立っていた。

「颯汰先輩……!」

思わず駆け寄ると、颯汰先輩はふっと優しく笑った。

「探してた?」

「はい……!」

即答してしまって、少しだけ恥ずかしくなる。

でも颯汰先輩は嬉しそうに目を細めた。

「俺も」

その一言に、胸がじんわり温かくなる。

「卒業、おめでとうございます……!」

そう言って花束を差し出すと、颯汰先輩は少し驚いたあと、優しく受け取った。

「ありがとう」

そして、少しだけ近づいてきて──

「……離れるの、寂しい?」

小さく囁くように聞いてくる。

「……寂しいです」

正直に答えると、颯汰先輩は少しだけ困ったように笑った。

「俺もだよ」

そのまま、そっと私の手を握る。

人目があるのに、そんなことお構いなしみたいに。

「でもさ」

まっすぐ見つめてくる。

「離れても、変わらないでしょ」

「……はい」

「むしろ」

少しだけ意地悪そうに笑って、

「今よりもっと会いに来るかも」

「えっ……?」

「優に会いたいし」

さらっと言われて、顔が一気に熱くなる。

(やっぱりずるい……!)

でも、その言葉がすごく嬉しくて。

「……私も、会いに行きます」

勇気を出してそう言うと、颯汰先輩は一瞬だけ驚いて、すぐに優しく笑った。

「うん、待ってる」

その笑顔は、出会った頃よりもずっと近くて、温かかった。

* * *

「おーい、2人ともイチャイチャしてんねぇ」

少し離れたところから、聞き慣れた声が飛んできた。

「廉先輩!」

振り向くと、いつもの調子で笑う廉先輩がいた。

「優、元気そうじゃん」

「はい!」

「それならよかった」

その言葉は、前と変わらず優しくて、安心する響きだった。

「廉先輩も、卒業おめでとうございます!」

「ありがと」

軽く笑って受け取ると、私の頭にぽん、と手を置く。

「ちゃんと頑張ってるみたいだし、安心したわ」

「えへへ……」

少し照れながら笑うと、廉先輩は満足そうに頷いた。

「これからも、無理すんなよ」

「はい!」

「……あと」

ほんの少しだけ間を空けて、

「泣きたくなったら、ちゃんと頼れよ」

その言葉に、胸がじんわりする。

「颯汰だけじゃなくてさ」

少しだけ視線を逸らしながら、

「俺もいるから」

「……っ」

変わらない。

この人は、ずっとこうやって支えてくれる人なんだ。

「ありがとうございます……!」

思わず、強く頷くと、廉先輩はくすっと笑った。

「素直でよろしい」

* * *

「じゃあね、優」

「またね」

そう言って、2人は並んで歩き出す。

その背中は、やっぱり少しだけ遠くて。

でも──

(寂しいだけじゃない)

前を向いて進んでいく、かっこいい背中。

「……先輩!」

思わず呼び止めると、2人が同時に振り返る。

「本当に……ありがとうございました!」

大きな声で、精一杯伝える。

すると颯汰先輩は優しく微笑んで、

廉先輩はいつものように軽く手を振った。

「こちらこそ」

「ありがとう」

その言葉を最後に、2人はまた前を向いて歩き出す。

桜の花びらが、ふわりと舞った。

(これからも、ずっと)

この想いも、この関係も、消えない。

大好きな人と、

大切な先輩と。

それぞれの道は違っても、ちゃんと繋がっている。

「……よし」

私は小さく息を吸って、前を向いた。

颯汰先輩と過ごす未来へ、

そして、これからも続いていく日々へ。

春の風が、優しく背中を押してくれた。