腹黒王子の愛は、激甘でした。

ついに迎えた文化祭当日。

校内は朝から大賑わいだった。

色とりどりの装飾、あちこちから聞こえる呼び込みの声。

いつもの学校とはまるで別世界みたいだ。

(いよいよ始まるんだ……!)

胸の奥が高鳴る。

「優ー!こっち準備できたよ!」

クラスメイトに呼ばれて、私は教室へと戻った。

私たちのクラスの出し物はカフェ。

机や椅子はおしゃれに並べられて、黒板には可愛いメニュー表。

そして私は──

「似合ってるじゃん」

「ほんとほんと!」

文化祭用のクラスTシャツを着て、料理を運ぶ担当になっていた。

「え、ほんと?変じゃない?」

「全然!むしろ看板娘って感じ!」

そんな風に言われて、思わず照れてしまう。

(ちゃんとやらなきゃ……!)

私は気合を入れ直した。

* * *

開店してから数時間。

「ご注文のオムライスです!」

「ありがとうございます〜!」

店内はお客さんでいっぱいだった。

注文を取って、料理を運んで、片付けて。

ひたすら動き回る。

(忙しいけど……楽しい!)

準備の大変さが嘘みたいに、今はただ充実していた。

そんなとき──

ガラッ、と扉が開く音がした。

「いらっしゃいませ!」

反射的に声を出して、そちらを見る。

そして──

「……あ」

思わず言葉が止まった。

そこに立っていたのは

「噂通りすごい人気だね」

と、驚いた様子の颯汰先輩と、

「気になるから来ちゃった」

と、笑顔を浮かべる廉先輩だった。

(え、なんで2人一緒に……!?)

予想外の組み合わせに一瞬フリーズする。

「優、仕事中?」

颯汰先輩が優しく微笑む。

「は、はい!そうなんです!」

慌てて答えると、廉先輩がくすっと笑った。

「ちゃんと働いてるじゃん」

「もう、当たり前です!」

思わずむっとする。

そんなやり取りを見て、颯汰先輩は少しだけ目を細めた。

「じゃあ、案内してもらってもいい?」

「え、あ、はい!こちらどうぞ!」

私は2人を席へと案内する。

なぜか妙に緊張する。

席に着いた2人は、向かい合う形になった。

その空気が──

(……なんか変?)

ほんの少しだけ、ピリッとしている気がした。

「優、注文いい?」

颯汰先輩が先に口を開く。

「はい!えっと、こちらがメニューです!」

「おすすめは?」

「えっと……オムライスが人気です!」

そう答えると、颯汰先輩はふっと笑った。

「じゃあそれにしようかな。優のおすすめなら」

(え、なんか距離近い……?)

ほんのりドキッとする。

するとすぐに──

「じゃあ俺もそれで」

廉先輩が口を挟んだ。

「え、同じのでいいんですか?」

「いいよ。優がすすめるなら間違いないでしょ」

さらっと言いながら、じっとこちらを見る。

その視線に、なんだか落ち着かなくなる。

「……優」

「は、はい!」

「さっきからずっと立ちっぱなしでしょ。ちょっと休んだら?」

颯汰先輩が心配そうに言う。

「えっ、でもまだお客さんも……」

「少しくらい大丈夫だよ。無理しないで」

優しく言われて、思わず言葉に詰まる。

(やっぱり颯汰先輩、優しいなぁ……)

そう思った瞬間──

「いや、仕事中にそれはダメでしょ」

廉先輩がきっぱりと颯汰先輩に注意した。

「え?」

「優にだってちゃんと役割があるんだから最後までやり切らないと」

その言い方は少しだけ厳しくて。

でもどこか、ちゃんと見てくれてる感じがする。

「……どっちなの……?」

思わず小さく呟いてしまう。

すると2人は同時にこちらを見た。

「優はちゃんと頑張ってるから、少しくらい甘えていいって言ってる」

「優は責任感強いんだから、最後までやりきった方が満足するでしょ」

ほぼ同時に出た言葉。

(え、なにこれ……!?)

空気が完全にぶつかっている。

「……ふふ」

先に笑ったのは颯汰先輩だった。

「相変わらずだね、廉」

「そっちこそ」

軽く笑いながらも、視線は外さない。

(え、え、なんかバチバチしてる……!?)

理由は分からないけど、明らかに空気がおかしい。

「と、とりあえず!オムライス持ってきますね!」

私は逃げるようにその場を離れた。

キッチンに入っても、さっきの空気が頭から離れない。

(なんだったの今……?)

2人ともいつも通りなのに。

どこか違う。

そんな違和感を抱えたまま、私は料理を受け取った。

(……でも今は仕事に集中しなきゃ!)

そう自分に言い聞かせて、再びホールへ戻る。

――この文化祭で。

何かが大きく動き始めていることに。

まだ私は、気づいていなかった。