腹黒王子の愛は、激甘でした。

翌日、昼休み。

私はいつものようにお弁当を持って、噴水前へ向かっていた。

(今日は颯汰先輩とランチの日だよね…!)

そう思って歩いていると――

「優」

後ろから声をかけられる。

振り返ると、そこには廉先輩がいた。

「廉先輩!こんにちは!」

笑顔で挨拶すると、

廉先輩はいつも通り軽く手を上げて、

「今日空いてる?」

と、さらっと聞いてきた。

「え?」

思わずきょとんとする。

(今日って…颯汰先輩と約束…)

そう言おうとした瞬間。

「優」

今度は前から、もう一人の声。

(……っ)

顔を上げると、

そこには颯汰先輩が立っていた。

「今日、一緒に食べる約束してたよね」

にこっと微笑みながら言うけど、

その目はしっかりこっちを見ている。

(え、ちょっと待って…この状況なに!?)

左右にそれぞれ立つ2人。

逃げ場がない。

「えっと、その…」

言葉に詰まっていると、

先に動いたのは廉先輩だった。

「じゃあさ」

一歩近づいてくる。

「今日は3人で食べる?」

さらっと言う。

「え?」

思わず声が出る。

(え、それアリなの!?)

すると――

「それはダメ」

即答したのは颯汰先輩だった。

(は、早い…!)

「今日は優と2人で話したいことあるから」

そう言って、

さりげなく私の手首を軽く引く。

(ちょ、距離近い…!)

ドキッとした瞬間――

「へぇ」

廉先輩の声が少しだけ低くなる。

「俺もあるけど」

そう言って、

反対側から私の腕を軽く引いた。

「優に話したいこと」

(え、ちょっと待ってほんとに何この状況!?)

完全に板挟み。

しかも2人とも、笑ってるのに全然引かない。

「どっち選ぶ?」

廉先輩が面白そうに言う。

「優」

颯汰先輩は静かに名前を呼ぶだけ。

(む、無理無理無理無理!!)

心臓がバクバクして、

頭が真っ白になる。

「えっと……あの……」

視線を行ったり来たりさせていると、

ふっ、と廉先輩が小さく笑った。

「……冗談だよ」

腕の力をふっと抜く。

「そんな困らせたい訳じゃないから」

そう言いながら、

一歩下がる。

「今日は颯汰と行きな」

軽く手をひらひらさせる。

「え…でも…」

戸惑っていると、

「ほら、約束してたんでしょ」

少しだけ優しく言う。

「ちゃんと守らないと」

その言葉に、胸がきゅっとなる。

(廉先輩…)

ちらっと颯汰先輩を見ると、

ほんの一瞬だけ複雑そうな顔をしていたけど、

すぐにいつもの表情に戻った。

「……じゃあ行こうか、優」

そっと私の方へ手を差し出す。

「は、はい…!」

私はその手を取って、

颯汰先輩の隣に並んだ。

歩き出す直前、

ふと振り返ると――

廉先輩が、いつもの笑顔で手を振っていた。

でもその目は、

どこか少しだけ――

寂しそうに見えた気がした。