腹黒王子の愛は、激甘でした。

待ち合わせ場所に着いた私は、そわそわと落ち着かずに辺りを見渡していた。

(まだかな……)

少し早く来すぎたかもしれない。

そう思っていると――

「優」

後ろから名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。

振り返ると、そこには颯汰先輩が立っていた。

「颯汰先輩!」

思わずパッと顔が明るくなる。

「ごめん、待った?」

「いえ!今来たところです!」

本当は少し前からいたけど、そんなこと言えるわけもなくて。

颯汰先輩はくすっと笑った。

「それ、絶対嘘でしょ」

「ち、違います!」

慌てる私を見て、楽しそうに笑う颯汰先輩。

その笑顔を見た瞬間、

(ああ……やっぱり好きだな)

そんな気持ちが、ふわっと胸に広がった。

「じゃあ、行こっか」

「はい!」

自然に並んで歩き出す。

それだけなのに、心臓がうるさい。

(距離、近くない……?)

隣を歩く颯汰先輩との距離が、いつもより少しだけ近い気がする。

気のせいじゃない。

でも、それを意識したら負けな気がして、必死に前を向いた。

「優、どこ行きたいとかある?」

「えっ、あの、どこでも大丈夫です!」

「それ一番困るやつだよ」

少し困ったように笑う颯汰先輩。

「じゃあ、今日は僕に任せていい?」

「はい!」

即答してしまう。

そのあとで恥ずかしくなって視線を逸らすと、

「そんなに信頼されると、ちゃんとしないとね」

優しい声が降ってきた。

(……またドキドキする)

そのあと連れて行ってくれたのは、

可愛い雑貨屋さんだったり、

落ち着いたカフェだったり。

どこもすごく素敵で、

「すごい……!全部おしゃれです……!」

思わず目を輝かせてしまう。

「優、こういうの好きかなって思って」

その言葉に、胸がぎゅっとなる。

(私のこと、ちゃんと考えてくれてるんだ……)

「すごく好きです!ありがとうございます!」

嬉しくて笑うと、

颯汰先輩は少しだけ目を細めた。

「よかった」

その表情が優しくて、

思わず見とれてしまう。

(……だめだ、ほんとに)

意識しすぎて、顔が熱くなる。

カフェで隣同士に座ったときも、

メニューを一緒に見ているだけなのに、

距離が近くてドキドキしてしまう。

「優、これ好きそう」

「え、あ、本当だ……!」

顔が近い。

声も近い。

(無理……心臓もたない……!)

そんな私の様子に気づいているのかいないのか、

颯汰先輩は自然体のまま。

でも――

ふとした瞬間に視線が合うと、

少しだけ照れたように目を逸らす。

(……あれ?)

その反応に、逆にドキッとする。

(颯汰先輩も……?)

そんなことを考えていると、

不意に名前を呼ばれた。

「優」

「はい?」

顔を上げると、まっすぐ見つめられる。

その視線に、一瞬息が止まる。

「今日、どう?」

「えっ……?」

「楽しい?」

少しだけ不安そうな声。

その表情を見た瞬間、

胸がぎゅっと締めつけられた。

「すごく楽しいです!」

思わず身を乗り出して言う。

「本当に……すごく、嬉しいです」

その言葉に、颯汰先輩は少し驚いたあと、

ふっと柔らかく笑った。

「そっか」

その一言が、すごく優しくて。

(……もっと一緒にいたいな)

気づけば、そんなことを思っていた。

帰り道。

少しだけ沈む夕日。

隣を歩く颯汰先輩。

何気ない会話。

全部が特別に感じる。

ふと、

指先が触れそうになる。

(……っ)

思わず意識してしまう。

離れようとした、その瞬間――

軽く、触れた。

一瞬だけ。

ほんの一瞬。

でも、その温もりが残って、

心臓が一気に跳ね上がる。

(い、今のって……!?)

隣を見る勇気が出ない。

でも――

颯汰先輩も、何も言わないまま少しだけ歩幅を緩めた。

(……同じこと、思ってるのかな)

そう思ったら、

胸がいっぱいになった。

言葉にはしない。

でも確かにそこにある距離。

そのもどかしささえ、

今は愛おしく思えた。

「……優」

「はい?」

「また、どこか行こう」

その言葉に、

私は迷わず頷いた。

「はい!」

夕焼けの中で、

2人の影が少しだけ近づいていた。