腹黒王子の愛は、激甘でした。

体育祭が終わって、家に帰る頃にはすっかり日が落ちていた。

玄関のドアを開けると、いつもの静かな空気が迎えてくれる。

「ただいまー…」

そう呟いても返事はなくて、なんだか少しだけ寂しく感じた。

(今日はいっぱい動いたなぁ…)

靴を脱いでそのまま自分の部屋に向かい、ベッドにぽすんと倒れ込む。

体はクタクタなのに、なぜか全然眠くならない。

むしろ──頭の中はやけに騒がしかった。

(楽しかったな…体育祭)

騎馬戦、リレー、綱引き、応援合戦。

どれも全力で、全部がキラキラしてた。

でも──

(……やっぱり、颯汰先輩だなぁ)

ふと、今日一番印象に残っている人を思い浮かべる。

リレーでのあの走り。

みんなを引っ張る団長としての姿。

そして──

『僕は優のこと、応援してるからね』

障害物競走の前にかけてくれた言葉。

思い出した瞬間、胸がじんわりと熱くなった。

(あの時、すごく嬉しかったな…)

それに、

手を引いて一緒にゴールした時のことも思い出す。

颯汰先輩の、あの真っ赤な顔。

(……あんな颯汰先輩、初めて見たかも)

気づけば、自然と笑みがこぼれていた。

──その時。

ふと、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

(……あれ?)

なんでだろう。

楽しかったはずなのに、

思い出すたびに、胸が苦しくなる。

颯汰先輩のことを考えると、

嬉しいのに、少し切なくて、

でもやっぱり、もっと考えていたくなる。

(……なんでこんな気持ちになるの?)

自分でも分からなくて、

私はそっと胸に手を当てた。

ドクン、ドクン、と少し速い鼓動。

そのまま天井を見つめながら、

今日の出来事を一つ一つ思い返していく。

──噴水前での笑顔。

──優しく名前を呼んでくれた声。

──少し照れたような表情。

どの瞬間にも、

必ず颯汰先輩がいる。

(……あれ)

そこで、気づいてしまった。

今日一日だけじゃない。

最近ずっと、

私は颯汰先輩のことばかり考えている。

会えたら嬉しくて、

話せたらもっと嬉しくて、

少しでも優しくされると、胸がいっぱいになる。

逆に、

他の人と楽しそうにしているのを見ると、

少しだけ、寂しくなる。

(それって……)

そこまで考えた瞬間、

心臓が大きく跳ねた。

(……嘘でしょ)

自分の中に浮かんできた答えを、

必死に否定しようとする。

でも──

どれだけ考えても、

当てはまる言葉は一つしかなかった。

(私……)

喉がカラカラに乾く。

呼吸が少しだけ浅くなる。

(颯汰先輩のこと……)

ぎゅっとシーツを握りしめる。

そして、

小さく、小さく呟いた。

「……好き、なんだ」

その言葉が空気に溶けた瞬間、

顔が一気に熱くなった。

(うそ……私が……!?)

自分で言ったのに信じられなくて、

でも、胸のドキドキはどんどん大きくなる。

思い返せば全部、

“好き”って感情で説明がついてしまう。

(だからあんなに嬉しかったんだ…)

(だから、あんなにドキドキしてたんだ…)

(だから……)

颯汰先輩のことを考えるだけで、

こんなにも苦しくて、愛おしくなるんだ。

「……どうしよう」

ぽつりと漏れた言葉。

嬉しいはずなのに、

同時にすごく怖かった。

(明日から、どうやって颯汰先輩と話せばいいの…?)

今までみたいに、

何も考えずに笑える気がしない。

目を合わせるだけで、

全部バレてしまいそうで。

(無理……絶対無理……!)

私は枕に顔をうずめた。

バクバクうるさい心臓の音が止まらない。

(好きなんて……気づかなきゃよかった…)

そう思うのに、

心のどこかでは少しだけ嬉しくて。

そんな自分にまた戸惑ってしまう。

その夜は、

何度も颯汰先輩のことを思い出してしまって、

なかなか眠ることができなかった。