(仮)ヤンキーくんとピュアな恋をする

心臓がバクバクと脈打つ。季節は春で、過ごしやすい気温のはずなのに、嫌な汗が出てくる。
よりによって、黛が兄!?なんの偶然なの!?
席が隣ってだけで迷惑被ってるのに、これ以上関わりを増やしたくないんだけど〜!!
でも、普段は髪の毛を下ろしているし、女子が嫌いな黛は一人一人の顔なんてきっと覚えてないだろう。派手な見た目ならともかく、地味〜で目立たない私の事なんて眼中に無いはず!!

お兄さんが黛千景だと確定した瞬間、思考がすごい勢いで回転する。どうにかここを切り抜ける方法はないのか…
黛千景は、見上げる私をフードの中からじーっと観察している。

「…お前、和田か?」
「!?!?」

わ、私の事認知されてる…!!
髪型もいつもと全然違うのに、なんで〜!?

「おっ、な〜んだせなねぇと兄ちゃんも友達だったのか!じゃあちょうどいいな!千尋、俺とキャッチボールしようぜ! 行くぞ!」
「えっ!? う、うんっ!! 兄さん、女の子に怪我させたらダメだよ!!」
「ちょ、晴大!! 千尋くん!!」

待って!!置いてかないで!!という私の心の声は届かず、ふたりはあっという間に広い場所へ走っていって早速キャッチボールをはじめてしまった。

何が悲しくて黛千景とバドミントンなんてしなくちゃならないんだ…!!
そもそも友達ですらない。話したことだって1度だって無いのだ。
再度恐る恐る見上げると、千尋くんがキャッチボールをしているところを心配そうに眺めていた。
休みの日に公園に連れてきてあげたり、怪我するのを心配したり、家族には優しいのかもしれない。噂に尾ひれはひれがついただけで実は優しい人なのかな?なんて思った。
だけど、いつかのあの黛千景のキレた場面を思い出す。…やっぱ無理だ怖いもん! とにかく、遊ばんくても良い方向性で話してしまおう。

「…あの〜、黛くん。 私は弟の保護者としてついてきただけなので、千尋くんの事見てて貰って全然大丈夫なので〜…」

消え入りそうな声で話しかけると、顔がこちらに向く。相変わらずムカつくほどイケメンだ。
また無言でじーっと私の顔を見る。その後、晴大が置いていったバドミントンのラケットとシャトルに視線が移った。

「…俺、それ、やったことない。」
「えっ?」

返ってきた言葉は意外なものだった。なんでそんなカタコトみたいな…。というか、やったことない、から、なんだろう。やりたくないなのか、やってみたいなのか。でも、やりたくない人がわざわざやったことないっていうのかな?
どっちかと言うとやったことないからやってみたいっていう文脈の方が多い気がする。

「えーっと、じゃあ…やる?」
「…。」

黛千景は無言のまま、こくん、と頷いた。
い、意外だ…。あまりにも予想を裏切られて、こちらが戸惑ってしまう。少し怖さが和らいできた。

「だいぶ使い込んでるからボロいの、ごめんね。ラケットは軽く握って、最初に打つ時は下から打ってね。遊びだし、最初は距離感とかわかんないかもだけど、とりあえず打ち返してくれればいいから!」
「…わかった。」

ラケットの握り方やシャトルの打ち方など目の前でやって見せた。雑な説明になっちゃったけど、習うより慣れろってことで!
できる限り会話を少なくして余計なことは言わない方が吉だろう、怒らせたくないし。そもそも、喧嘩強いってことだし、運動神経とかも悪くないだろうから、すぐに上達すると思うし。