「わー、気持ちいい」
「生き返ったわ。自習室って二階だっけ」
「先に読書感想文の課題図書探していいですか?」
「俺も探す」
一緒に本棚に向かうと、すぐ手前に読書感想文コーナーができていた。小学校から高校までの課題図書やおすすめの本が並んでいる。
「あ、これ……先輩、手を離さないと本が取れないんですけど」
「やだ」
「ヤダじゃないんですよ。宿題しにきたんですから。また帰りにつないであげますから」
「絶対つないで」
「子どもか……?」
なんとか先輩の手を離して、本を選んだ。
戦後の植林についての本があったから、それにした。
先輩も、似たような砂漠地帯の植林と保水についての本を選んでいた。
借りたら、二階の自習室で宿題だ。
端の席に、先輩と向かい合わせで座った。
先輩たちからレポートを借りて学校でコピーさせてもらったものを持ってきたから、なんとかなるはずだ。
「えっと、古典が枕草子か和泉式部日記か紫式部日記のどれかの感想文……国語と漢文もそれぞれレポート必須とか! 数学が、なにこれ、好きな数式とその理由……? 何言ってるの?」
「数学は毎年それだね。考えるな、感じるんだ」
「なんでしたっけ、それ」
「燃えよドラゴン」
「先輩、映画好き?」
「別に。弟が好きで見てるから、面白そうだったらチラ見するくらい」
「弟いるんだ?」
「兄と弟がいる。この服は兄から借りてきた」
「ふうん。センスのいいお兄さんですね」
「兄の服全部もらってくる」
「追い剥ぎじゃないですか」
どうでもいいことを話しながら、まず古典の教科書をめくった。枕草子にしようかな。春は曙、夏は夜。いいことを言う。私も冬の朝に畑の霜柱を踏むのは大好きだ。
パパが大河ドラマ好きで、昔の紫式部が主人公のドラマを見ていたから、ついそれで絵面が浮かんでしまう。
ざっと枕草子の内容と時代背景を書いて、私の好きなところや同意できること、よく分からないことを書いて、最後にそれっぽくまとめておしまい。
数学はどうしよう。数式に好きも嫌いもない。
顔を上げたら先輩が真面目な顔でシャーペンを走らせていた。
ふわふわの髪がエアコンの風で揺れていて、前髪の向こうにたまに見える茶色の丸い目が、透けるようにキラキラと光っている。
もうちょっと、見せてほしいな。
「花菜ちゃん?」
「あ……すみません」
つい手を伸ばして、先輩の前髪を避けていた。
「どうしたの」
「先輩の目が見えなかったから、髪を避けちゃいました」
「見たかった?」
「ちょっと。でも、あとでいいです。この意味不明な宿題をしないといけないので」
先輩の顔から目をそらした。
数式についてのレポートは毎年同じって言ってたから、先輩たちのレポートを見せてもらおう。
「それ、別に好きなのはないって書いても大丈夫だよ」
「そうなんですか?」
「うん。去年の三年生の先輩……の知り合いがそう書いて、ちゃんと理由とか今まで習った数式についても書いたら満点だったって聞いた」
「知り合いの知り合いかあ」
「まあ、そっちの方が大変だと思うけど」
先輩は苦笑して、私の手元のレポートを指した。
「俺は集合と論理のことを書いた。いいよね、分かりやすくてきれいな式ができる」
正直全然意味が分からなかった。
何言ってるんだこの人。
藤也や桔花、蓮乃みたいに頭が良ければ分かるのかもしれない。
単に私が数学にも数式にも何の興味もないから分からないんだろうけど。
「世菜先輩。私には全然意味が分からないので、そういうことを書こうと思います」
「いいと思う」
先輩は微笑んで、自分の宿題を再開した。
「生き返ったわ。自習室って二階だっけ」
「先に読書感想文の課題図書探していいですか?」
「俺も探す」
一緒に本棚に向かうと、すぐ手前に読書感想文コーナーができていた。小学校から高校までの課題図書やおすすめの本が並んでいる。
「あ、これ……先輩、手を離さないと本が取れないんですけど」
「やだ」
「ヤダじゃないんですよ。宿題しにきたんですから。また帰りにつないであげますから」
「絶対つないで」
「子どもか……?」
なんとか先輩の手を離して、本を選んだ。
戦後の植林についての本があったから、それにした。
先輩も、似たような砂漠地帯の植林と保水についての本を選んでいた。
借りたら、二階の自習室で宿題だ。
端の席に、先輩と向かい合わせで座った。
先輩たちからレポートを借りて学校でコピーさせてもらったものを持ってきたから、なんとかなるはずだ。
「えっと、古典が枕草子か和泉式部日記か紫式部日記のどれかの感想文……国語と漢文もそれぞれレポート必須とか! 数学が、なにこれ、好きな数式とその理由……? 何言ってるの?」
「数学は毎年それだね。考えるな、感じるんだ」
「なんでしたっけ、それ」
「燃えよドラゴン」
「先輩、映画好き?」
「別に。弟が好きで見てるから、面白そうだったらチラ見するくらい」
「弟いるんだ?」
「兄と弟がいる。この服は兄から借りてきた」
「ふうん。センスのいいお兄さんですね」
「兄の服全部もらってくる」
「追い剥ぎじゃないですか」
どうでもいいことを話しながら、まず古典の教科書をめくった。枕草子にしようかな。春は曙、夏は夜。いいことを言う。私も冬の朝に畑の霜柱を踏むのは大好きだ。
パパが大河ドラマ好きで、昔の紫式部が主人公のドラマを見ていたから、ついそれで絵面が浮かんでしまう。
ざっと枕草子の内容と時代背景を書いて、私の好きなところや同意できること、よく分からないことを書いて、最後にそれっぽくまとめておしまい。
数学はどうしよう。数式に好きも嫌いもない。
顔を上げたら先輩が真面目な顔でシャーペンを走らせていた。
ふわふわの髪がエアコンの風で揺れていて、前髪の向こうにたまに見える茶色の丸い目が、透けるようにキラキラと光っている。
もうちょっと、見せてほしいな。
「花菜ちゃん?」
「あ……すみません」
つい手を伸ばして、先輩の前髪を避けていた。
「どうしたの」
「先輩の目が見えなかったから、髪を避けちゃいました」
「見たかった?」
「ちょっと。でも、あとでいいです。この意味不明な宿題をしないといけないので」
先輩の顔から目をそらした。
数式についてのレポートは毎年同じって言ってたから、先輩たちのレポートを見せてもらおう。
「それ、別に好きなのはないって書いても大丈夫だよ」
「そうなんですか?」
「うん。去年の三年生の先輩……の知り合いがそう書いて、ちゃんと理由とか今まで習った数式についても書いたら満点だったって聞いた」
「知り合いの知り合いかあ」
「まあ、そっちの方が大変だと思うけど」
先輩は苦笑して、私の手元のレポートを指した。
「俺は集合と論理のことを書いた。いいよね、分かりやすくてきれいな式ができる」
正直全然意味が分からなかった。
何言ってるんだこの人。
藤也や桔花、蓮乃みたいに頭が良ければ分かるのかもしれない。
単に私が数学にも数式にも何の興味もないから分からないんだろうけど。
「世菜先輩。私には全然意味が分からないので、そういうことを書こうと思います」
「いいと思う」
先輩は微笑んで、自分の宿題を再開した。



