「今年の恵方がどこだったか分からないから、全方角を向いて…つまりその場で円を書くように1週して食べようとしてる?」
その言葉に甘太郎が頷く。
「え、じゃあさっきから一言も話さないのは…?」
「えっと…それはたぶん、“黙ったまま恵方巻きを食べきると願い事が叶う”って言われているからではないでしょうか…」
一の説明に再び甘太郎が強く頷いた。
「そういうのちゃんと守るタイプだったんだな…」
また体の向きを変えた甘太郎を見つめながら、自分の駄菓子にかじりついて呟く。
そんなに叶えたい願いがあるのかな。
もしそうなら、叶うといいなと思った。
「そういえば、この前バレンタインだっただろ?」
樹から飛び出した言葉に、ぼくはジトリと視線を向ける。
「何だよ樹…自らの自慢話でもする気か?」
忘れもしないバレンタインデーの日。
樹が学校で女子数人からチョコ(しかも本命)をもらっている現場を見てしまったぼくは、その日の事を思い出していた。
分かるか?
女の子に呼び出され、ドキドキしながら向かうなり“このチョコ、樹くんに渡して!”なんて頼まれたときのぼくの気持ち…。
この言葉にできない敗北感が、分かるか?
樹がケラケラと笑う。
「いや俺の事じゃなくて。甘太郎もけっこうチョコもらっててビックリしたよなって話をしようかなって」
「えっ、そうだったっけ?」
全く知らなかったぼくに、一が苦笑する。



