橘若頭と怖がり姫

 母と一緒に極道の父子に保護されたのが、八歳の頃。
 極道に保護されるというのは奇妙な話だけれど、希乃(きの)にとってはその父子が救いの存在であったのだから仕方ない。
 八歳の子どもと同じくらいの知性しかない母は、ある日港の倉庫で柄の悪い男たちに乱暴されて、意識を失くしていた。希乃はひとり裸足でそこから逃げ出して、とても悪い人たちだが強い人たちだと噂されている――大きくなって、それが極道というものだと知った――(たちばな)家の門戸を叩いたのだった。
――お母さんを助けてください、大きくなったら私の全部で返しますから。
 玄関で土に頭をつけて頼んだ希乃は、ぽんと大きな手で頭に触れられて顔を上げた。
――本当に、全部?
 見上げた先には、涼しげだが目の光がとても強い、男の人がいた。希乃はその目に吸い込まれるような……惹きつけられるような怖さを感じながらも、こくりとうなずいていた。
――約束だよ。……大きくなったら、全部をもらうからね。
 男の人は満足そうにうなずいて、希乃を自分の目線の高さまで抱き上げた。
 この人はきっと強くて……でも確かに悪い人なんだろうと思いながら、希乃は仄暗い微笑みを浮かべる彼の瞳から目を逸らすことができなかった。