乃々が恭の部屋に入ると、恭はテーブルにトレーを置いてから、いつも通り部屋に鍵を降ろした。
トレーからお茶を取って一口飲むと、恭はソファを引いて乃々を座らせた。
「黒沢さん、招待したら僕の家に来てくれる?」
ソファに座りながら恭が聞いた。
「大型犬が1匹居るよ。車は3台ある。姉さんのと兄さんのと父さんの。家ムダにデカいよ。」
「どこに住んでたっけ?」
「黒沢さんの隣の町。すぐ近くだよ。」
恭が言った。
「庭にぶらんこあるから、乗せてあげる」
ふと、恭が下を向いたので、乃々も床を見た。
床に敷いてあるラグは、毛足が短く、触り心地が快適そうだった。
ちょっとの間無言の空気が流れた。
「……貰った電話番号をもう覚えた。」
恭が口を開いた。
「キミがもし忘れても僕が電話できるから、大丈夫」
恭の目が伏せられて、床に伸びたアイスティーの透明な影を追った。
「黒沢さん、」
「何?」
恭が顔を上げた。
「北谷との約束取り下げてくれない?。」
乃々が見ると恭は組んだ足を組み替えた。
「付き合ってるんでしょ。」
咎めるような口調。
「僕が先に出会ってたら良かったんだけど。」
恭はまったく腹ただしい、という様にため息をついた。
事態が飲み込めない乃々は、きょとんとした顔で恭を見返した。
「どういう事かって言うと、」
恭は小さなテーブルを挟んで、乃々に屈んだ。
髪を掻き上げられた額に、目を瞑った恭の唇が軽く触れたので、乃々は目をパチクリした。
「好きだよ。」
恭が目を開けた。
どうしたらこんな造形美が生まれるのだろう、と周りの人によく思われる、整った綺麗な顔が首を傾げた。
「僕を選んでくれるでしょ?。」


