乃々と貸し別荘の話







 一階の蒼空の部屋のドアを開けると誰も居なかった。

 居間にタオルケットが出しっぱなしになっていて、さっきまで人の居た気配がした。



「母さん居ない。入って。」



 乃々が入口から部屋を見ていると蒼空が言った。




 蒼空は、居間の棚の引き出しから新しいコップとティーパックを取った。
 テーブルの給湯器で、蒼空はお茶にお湯を注いだ。

 
 窓から日差しが差し込んで、白いロールのシェードを通して明るく光っている。


 お盆に2つカップを置いて、2人は向かい合ったソファに腰掛けてお茶を飲んだ。



「学校で何してる?」



 お茶のカップを口に運びながら、蒼空が聞いた。



「何にも。飼育係になりたかったけど、じゃんけんで負けちゃった」

「兄妹居る?」

「居ない。」

「ふーん、だろうな。お前って一人っ子だろうなって思ってた。」



 それから蒼空は笑って付け足した。



「空気読めないとことか。」



 乃々が何か言う前にお茶を一口飲むと、しれっとした顔で言った。



「僕も一人っ子だよ。お前と違って空気読むけどね。お前、別荘は初めて?」

「うん。夏はいつもお祖母ちゃんちしか行かない。」

「僕は二回目。伯父さんが持ってて、そっちは貸別荘じゃないんだ。ここより狭いけど、そっちは本棚が沢山あって、ってか物が沢山置いてあって面白い。お前は本が好きそうには見えないけど、読むの?」

「あんまり読まないよ。家では絵を描いてる。」



 その時、蒼空の母親がトーストを片手に部屋に入って来た。



「あら、何してたの?」


 母親が聞いた。


「母さんは?」


 蒼空は母親を見上げて聞き返した。



「ママは朝ご飯よ。えーと……」

「乃々。」

「乃々ちゃんも先にお母さんと朝ごはんにしたら?材料冷蔵庫に沢山買ってあるから好きなの使って食べて。蒼空あなたはもう食べたでしょ。」

「分かった。」



 蒼空は乃々に向き直ってしかめっ面を作った。
 


「食い終わったら僕の部屋に来る事。もし来なかったら打つよ。」



 乃々はドアを開けて蒼空の部屋から出た。