乃々と貸し別荘の話





 ベッドルームを出て居間を通り、ドアを開けると、恭が立っていた。

 いつも通りの作り物の様な美しい顔で、乃々がドアを開けると微笑んだ。



「良かった居て。」



 恭はドア枠に片手で寄りかかって聞いた。



「トランプしない?。僕の部屋で。」



 廊下を伝って恭の部屋に入っていくと、恭の部屋には、乃々の部屋と違ってラグが敷かれていた。

 居間から見える奥のベッドルームは乃々の部屋と同じ色合いで窓が大きく、こちらもロールのカーテンで、今は半分だけ開けてあった。



 乃々が部屋に入ると、恭は後ろに回って、部屋に鍵をかけた。




「親出掛けてる。」

「うちも」

「黒沢さん、座って。ポーカーやろう。」




 恭はベッドルームに戻って、引き出しからトランプを出してきた。



 恭の部屋のソファは乃々の部屋のと少し違っていて、座ると椅子の部分が乃々のより深かった。



 乃々は、座り直すと、テーブルで恭がトランプを切るのを見ていた。


 切り終わったトランプを配りながら恭が聞いた。



「子供だけで居る時って一番何したい?」



 乃々は配られたトランプを見ながらちょっと首を傾げた。



 
「お喋り。」

「そう。2人で喋ってようか。親帰ってくるまで。」




 乃々は手持ちのトランプを順番に並べ直した。



「学校に転校生が来たことがあるけど、別荘の友達ってそれよりも珍しいイメージだな。」



 恭が言った。



「夏の間しか会えないって思うと寂しいけど、それはそれで雰囲気あるよね。」



 乃々は持ち札を見ながら頷いた。




「僕の学校は制服なんだけど、夏は暑くて。いっつも、ベストを着ないで登校するんだ」

「ふーん」

「キミの学校私服でしょう?羨ましい」




 恭はカードを並べ直しながらまた話を始めた。



「家庭教師の先生に、夏は休みを出してるんだけど。」



 恭がカードを捨てる。




「良い人なんだけどそそっかしくて。お休みなのに間違えて家に来ちゃうんだ。驚く。」

「へえ」

「2回、そういう事があった。」

「ふーん」




 恭が山札のトランプを取った。

 カードを見ながら恭が聞いた。




「遊びに出掛けた先で、友達と会った事ある?」



 乃々は首を傾げた。



「ない」

「ツーリングに行ったんだけど、前を歩いてた人が、偶然知り合いだった。そういう事ってたまに本当にあるらしいよ。」

「その時何か話した?」

「ちょっとだけ。すぐ別れた。出掛けだったから。」




 乃々は手札を伏せて捨てた。



「黒沢さん、去年はどこか行った?」



 恭が聞いた。




「おばあちゃんちしか行ってないよ」

「そうなんだ。僕は今年は別荘だけど、去年は旅行だった。」


 恭が言った。



「海外のコテージに行って、泳いできたんだ。そっちもまあまあ楽しかったけど、今年の方が良いな」



 恭が手持ちのカードを捨てた。

 捨札のカードは増えてきて、テーブルにこんもり山になっている。



「今年の夏は充実したな。」



 恭が言った。



「夏の特別な思い出って、こういう時間を言うんだ。今別荘に僕達しか居ないよ。二人きり。」




 2人は、お互いの手札を予想しながら、しばらく無言で居た。




「……ストップ」



 恭がコールをかけた。

 持っていたトランプを表にしながら、恭がくすり、と笑った。



「別に僕は狙っては喋らない。黒沢さんって天然だよね。」