乃々と貸し別荘の話






 次の日。


「靴下は、履いてるわね、よし。」


 別荘の玄関には、今日は履かないビーサンが人数分しまってある。
 靴を履いた乃々の母親は、子供達三人の服装をチェックした。


「大袈裟」


 蒼空がリュックの肩紐を調節しながら言った。




「山道は大変よ。余計な物持っていっちゃ駄目だし。お茶は持ったわね。乃々も。」

「持った」




 乃々はリュックを脇の小さな椅子に置いて、肩からかけたポシェットをがさごそやりながら答えた。


「黒沢さん、メモ帳持った?」


 靴を履きながら恭が聞いた。




「うん」

「あら、メモ帳なんか要るの?」

「絵を描いてあげるって約束してて。山道、楽しみだな。」




 乃々も山の散策が楽しみだった。


 聞いた話では、そこまで傾斜はきつくなく、展望台まで子供でも登れるという事だった。



 靴を履いてさて出掛けようとドアを開けた乃々に、蒼空と恭の声が重なった。




「乃々、」

「黒沢さん、」




 乃々が振り向くと、乃々のリュックが玄関の椅子の上に置きっぱなしになっていた。