乃々と貸し別荘の話






 リビングに行こうと部屋を出ると、丁度、恭が隣の部屋を出てくるところだった。


「あ」


 恭は乃々に気付くとちょっと微笑んだ。


「黒沢さん、何してたの?」


 恭が聞いた。




「絵描いてた。恭くんは?」

「何にも。する事なくて。」

「アイス買ってあるから食べなだって」

「本当?」




 廊下で2人が話していると足音がして、一階の階段を蒼空が登って来た。



 
「蒼空くん」

「何話してたの?」




 蒼空が乃々に聞いた。




「おやつにアイス食べようって話。キミは?」

「別に。乃々に会いに来ただけ。」

「蒼空くんもアイス食べようよ。」



 乃々が言ったので、三人は階段を降りた。




「黒沢さん、家ではいつも何してるの?」

「絵を描いてるよ。普段は。」

「ふーん。僕は本読んでる。か、パソコンいじってるかだな。本読む?」

「あんまり読まないよ」




 乃々と恭の会話に、蒼空は加わらず歩いていく。





 ダイニングに入った三人はキッチンへ行って冷凍庫を開け、カップのアイスを出した。



「バニラとチョコとイチゴだって」



 乃々は食器入れからスプーンを三つ出して、2人に渡した。




「僕バニラが良い」

「僕もバニラが良い」

「じゃんけんだね」




 じゃんけんをすると、恭がバニラで乃々がイチゴで蒼空がチョコに決まった。



 テーブルについて、乃々を真ん中に三人で並んでアイスを食べた。



「夏休みって良いよね」



 乃々が言った。




「時間いっぱいあるし、どこでも行けるし、何でも出来るよね」

「普段と違う事が沢山あって、充実するよな」




 蒼空が言った。




「新しい事も一杯あるし、友達増えるしね」

「そう?。僕は普段とあんま変わらないよ。」




 落ち着いた声で、恭が言った。



「家でも本読むし。気分転換には良いけど。」



 スプーンで掬うとアイスは良い匂いがした。

 イチゴのアイスには果肉がたっぷり入っていたので、乃々はその味を選んで良かったと思った。



「別荘でずっと暮らせたらなあ。」



 乃々がうっとりして言った。




「学校ないし、先生居ないし。子供だけで別荘を借りたら面白くない?」

「もしそうなったら友達連れてくるよ。自炊するんだね。」




 蒼空が言った。




「乃々がやるんなら良い。僕は料理しない。」

「交代でやろうよ。」




 恭が言った。




「料理が面倒なら、宅配取ろうよ。おいしいし。」

「そうなったら毎日ピザだな」




 蒼空が言った。



「そうなったら、毎日プール入れるよね。」



 乃々は、アイスを掬いながら、ほうっとため息を付いた。



 しばらく3人は黙ってアイスを食べていた。
 

 ふいに、恭が言ったので乃々は顔を上げた。



「このアイス、何か変」



 恭が言った。




「変っていうか薄い、味が。家で食べてるのと比べて」

「そう?」

「コンビニのアイスの味みたい。薄いけど甘くて」

「そうかな?」



 
 蒼空がカチャリ、とスプーンを置いた。



「感じ悪い、そうやって言うの。黙ってれば良いだろ。」



 恭はちょっと驚いた顔をした。




「は?。言っただけだろ。」

「乃々のお母さんが買ってきたんだぞ。失礼だろ。」

「食べてくれると嬉しいけど。」




 乃々が遠慮がちに言った。



「食べるよ、もちろん。変わった味だと思っただけ。」



 恭は不機嫌な顔になった。



「黒沢さん、おいしく食べてるよ。何だよ。何で北谷がつっかかって来るんだ?腹立つな。」



 蒼空はそれには答えなかった。

 代わりにきっぱりした声で言った。



「乃々、さっさと食べて僕の部屋行くぞ。」



 乃々が蒼空を見ると、蒼空も、虫の居所の悪そうな顔をしていたので、乃々は困った。



「まだ食べ終わらないよ。」



 乃々は言った。

 乃々は、難しい顔をしている2人に挟まれてイチゴアイスの残りを食べた。