乃々と貸し別荘の話





 夕方、乃々が乃々が二階のロビーをぶらぶらしていると、階段から、肩にタオルをかけた、昨日来た男の子が上がってきた。


 男の子は、タオルで濡れた癖っ毛を拭きながら階段を登っていたが、卓球台のロビーに目をやると、乃々にすぐに気が付いた。


 ロビーまで来ると、昨日とは打って変わって落ち着いた表情で、男の子は口を開いた。




「こんにちは。えっと……」

「黒沢乃々。なんて名前?」

「山居恭。」

「恭くん、お風呂入ってたの?」

「うん。ついさっきまで。ここの風呂、小さいけど綺麗だね。キミ、3年生でしょ?僕も同じ年。」



 恭が言った。




「昨日はごめん。ママと喧嘩して、誰かと口聞くと怒ってないってバレるから、無視しなきゃならなかったんだ」

「恭くん、喧嘩すると口聞かないの?」

「うん、そうすると親が折れるから、いつもそう。別に大したことじゃなかったんだけど。」




 恭が聞いた。




「黒沢さん、いつここへ来たの?」

「先月。一月居るよ」

「ふーん。もっと早く来れば良かったな。ママの都合で、どうしても開けれなくて、8月からになっちゃったんだ。何してたの?」




 乃々は考えた。




「色々。」

「ふーん」




 恭が、まつ毛の長い薄い色の瞳で乃々をじっと見つめたので、乃々は照れくさくなって、髪を触った。



「何?」



 乃々が聞いた。



「何でもない。僕が見ると照れる人たまに居るよ」



 恭は下を向いてくすくす笑った。




「女の子はキミ一人で、男がもう一人居るよね」

「蒼空くんだよ。同じ年。7月から居る。話した?」

「まだ話してない。どんな奴?」




 乃々は迷ってから答えた。




「良い奴。」

「ふーん」




 恭は頷いた。




「僕ここの部屋気に入ってる。ちょっと狭いけど。感じ良いよね。」

「プールもう見た?」

「まだ見てない。あるのは知ってる。」

「すっごく楽しかったよ」

「そっか。楽しみにしとく。」




 恭が聞いた。




「黒沢さん、この別荘の名前知ってる?」

「知らない。何ていうの?」

「森野さんの持ってる別荘だから、コテージモリノっていうんだ。パンフレットに書いてあった」

「へえ」

「だから僕はこの別荘モリノって呼ぶんだ。……僕の部屋二階。部屋下?」

「上だよ。多分隣。」

「そう。」




 恭と乃々は、それからしばらくロビーで話込んでいた。