乃々と貸し別荘の話





 ぺちっと頬を叩かれて乃々は目を覚ました。

 一瞬、自分が別荘に来ているのを忘れて、どこに居るのか分からなかった。

 仰向けのまま目を開けると、自分を見下ろす蒼空の整った顔が飛び込んで来て、乃々は瞬きした。



「朝寝坊」



 自分の両腰に手を当てて、しかめっ面で蒼空が言った。



「さっさと着替える。しゃんとする。」



 蒼空は、体を起こした乃々のタオルケットを取り上げて丸めた。



「顔洗ってきな。」



 廊下は窓から入る光で明るかった。

 ドアを開けて部屋を出たが、乃々はどっちに向かって歩いたら良いかが分からずぐずついた。

 木の腰壁の廊下をうろうろしていると、後ろから蒼空が乃々の腕を引いた。



「こっちだよ。」



 洗面所は広く明るいデザインで、ドアの隙間から檜の風呂が見えた。

 昨日入ったその風呂は、色んな種類の青色のタイルが壁全面に貼ってあってとても広くて、入った時に乃々は海を思い出した。



 乃々が栓を捻って水を出すのを、蒼空は腕組みをして見ていた。

 パシャパシャと顔を洗い終わると、蒼空がタオルケースからタオルを出して渡してくれた。



「着替え一緒に取ってこなかったの?」



 乃々が顔を拭いていると蒼空が呆れた、と言う風に聞いた。


「愚図だね、お前。」