電気を消した部屋の天井は高いが斜めの勾配になっていた。
記憶も不思議だが、眠りも不思議だ、と乃々は思っていた。
眠りに落ちるのを待つ時、いつも今日起きた出来事を思うのも不思議。
天井を見ながらうとうとしていると、ふいに、外からノックの音がした。
────こんな時間にどうしたんだろう。
起き上がった乃々は、タオルケットを脇に置いて、ストン、とベッドから降りた。
隣で寝ている母親の横をそっと通り過ぎて、静かにドアを開けると、暗い廊下に、蒼空が立っていた。
「どうしたの?」
「来て」
蒼空はしー、と口に手をやると歩き出した。
蒼空について乃々が歩いていくと、2階のロビーの卓球スペースは夜に見ると静かでまた雰囲気が違った。
ガラス窓の屋根から、星空が覗いている。
卓球のラバーを手に取って、ロビーの壁に寄りかかる蒼空を、乃々は立ったまま見ていた。
星の窓を見ながら、蒼空が口を開いた。
「別荘で過ごした事、多分、一生忘れないと思う。」
蒼空は、ラバーでもう片方の手を叩いた。
「大人になったら何する?」
乃々は首を傾げた。
「大人になったら僕と結婚するって約束してくれる?」
蒼空がそう聞いたので、乃々は思わずええ!?と夜中に響く大きな声を出してしまった。
「うるさい」
乃々は蒼空に打たれた頭を抑えた。
「……。」
「はい、は?。」
「……。」
「はいそうします、は。」
腕組みした蒼空に見下されて、乃々は小声で応えた。
「……はい。」
「はい。浮気厳禁。高校同じところ行くから勉強しなよ。この夏だけって思ってたら許さないから。」
蒼空が言った。
「これからずっと、お前を守ってあげるね」
乃々は、蒼空の言葉を、夢見心地で聞いていた。
プロポーズされたのは初めてだったし、夜中に二人でこうして居るのは秘密の話の様でとてもロマンチックだった。
別荘の夜はまだ更けない。
外では夏の虫が、静かに鳴いて、特別な季節の歌を歌っている。
蒼空がラバーを卓球台に置いた。
「じゃあ、それだけ。僕もう寝る。おやすみ。」
階段を降りる蒼空の姿が見えなくなっていく。
乃々の心の中で、どきどきする感情が、うまく言葉にならなかった。


