乃々と貸し別荘の話






 夕方だったが、リビングの電気を付けて、乃々達は庭でバーベキューをした。

 グリルで肉を焼くいい匂いがして、親達は折り畳みのチェアを出して寛いでいる。


 乃々と蒼空は芝地にしゃがんで、串に通した野菜と肉を食べた。


「お父さんとお母さんが大喧嘩した事があるんだ」


 串の肉を食べながら乃々が言った。

 父と母のその喧嘩は乃々の秘密だった。

 乃々は仲良くなった友達には必ずこの話をした。




「お母さんが出ていっちゃって、家にお父さんと私だけになって、お父さんがお母さんに電話したけど、出てくれなかったんだ」

「ふーん」




 蒼空は肉を食べながら頷いた。




「出ていく前にお母さんはお父さんを一生許さない、って言った。お母さんは帰って来たけど、その日は全然喋らなかったんだ。蒼空くんだったらどうする?」

「ほっとく」




 蒼空はそっけなく言った。




「無駄。そんなのに振り回されるの。」

「……すっごい大騒ぎだったよ。」

「どうせすぐ仲直りするし、大人にとってはなんでもないよ。お前が気にしてやることじゃない。」

「そうかなあ。」




 二人はちょっと黙った。

 別荘の庭に夜の風が吹いていく。



「蒼空くん、記憶って不思議じゃない?」



 乃々が聞いた。



「そういう騒ぎがあった事とか、今日のバーベキューとか、大人になっても覚えてると思うんだ。」



 乃々が言った。



「蒼空くんの事も忘れないよ」




 乃々は夜空を見上げた。

 隣で蒼空も空を見上げたが何も言わなかった。