乃々と貸し別荘の話






 乃々と蒼空はダイニングに行った。


 ダイニングには吹き抜けがあって、天井には木でできたお洒落なファンが回っている。


 蒼空は椅子を引いて座ると、一枚木の大きなテーブルに、原稿用紙を置いた。



「何書こうか。乃々、お前の学校作文の宿題でた?」



 蒼空が聞いた。



「うん」



 乃々が応えた。




「まだやってない。」

「教えてやる。書きやすい思い出を選ぶのがコツ。書きにくい題材を選ぶと、書く手が止まっちゃうって。さて。」




 シャーペンをカチっと鳴らし、蒼空は作文を書き始めた。

 乃々は、しばらくぐずぐずしていたが、ようやく、蒼空の隣で、部屋から持ってきた算数のプリントを始めた。



「蒼空くんって、友達と遊ぶ時、家で遊ぶ外で遊ぶ?」



 計算した答えを升目に書き込みながら、乃々が聞いた。




「外。僕もだけど、体動かすの好きな奴多いから。」

「鬼ごっこする?」

「ボールで遊ぶ。女子居ない。楽しいよ。」

「ふーん」




 乃々は、鉛筆の後ろに顎を当てた。




「蒼空くん、嘘をついた事ある?」

「ない」




 蒼空が答えた。



 
「一度も?」

「うん。」

「もし嘘をついた時にバレちゃったらどうする?」

「付かないって言った。最初から付かない。集中しろよ」

「蒼空くん、雨の日考え事する?」

「しない。」




 シャーペンを滑らせながら、蒼空はなんとも思ってなさそうな調子で答えた。



 乃々は、苦手な計算を、辛抱強く見直しをしながらゆっくり解いた。

 掛け算と割り算より、足し算と引き算の方が乃々には間違いやすかった。



「乃々」



 作文用紙から目を上げないまま、蒼空が単調な声で呼んだ。



「何?」



 乃々は二回目の見直しをしているところだった。



「お前、好きなやつ居る?」



 出し抜けに蒼空が聞いたので、乃々は計算を止めた。




「居ない。なんで?」

「友達が女子に、ラブレター書いたんだ」

「へえ。どうだった?」

「まだ付き合わないからって言われた。普通に仲良くしてるよ。そいつとばっか遊んでる。」

「ふーん、良いね」

「うん、将来は結婚するって言ってるって。約束もしたらしいよ。……それで、お前は居ないんだね。」




 ふ、と口元を綻ばせた蒼空は、顔を上げて頬杖を付いて、もしできない所あったら教えてやる、と乃々に言った。