「友達に会いに行くから、今日はあなたはお留守番よ」
ワンピースを余所行きのノンスリーブに着替えながら、乃々の母親が言った。
乃々は、居間の小さな丸いテーブルで母親のメモ帳に、ボールペンで落書きをしていたところだった。
別荘を描いたつもりの建物は斜めにひしゃげていたが、乃々はそれを結構うまく描けてる、と自分で思っていた。
隣に平仮名でたのしい、と書いて、乃々は別荘で過ごす喜びを表現したつもりだった。
母親は脱いだワンピースを緩めに畳むと、居間にやって来て、ソファから鞄を取った。
ポーチの中の、細いネックレスは、母親が人と会うとき必ず付けるアクセサリーだ。
「お昼には帰ってくるから。お土産を買ってくるわ。蒼空くんに遊んで貰いなさい。……聞いてるの?」
鏡の前に座りながら、母親は乃々に顔をしかめて見せた。


