乃々と貸し別荘の話





 乃々は、ベッドの上に腰掛けて、肩にかけた丸いポシェットの中を探っていた。

 入れたと思った物が入ってない事を、学校の友達はフェイントと呼んだが、乃々は、そのフェイントの常連だった。


「早く準備しなさい、乃々。」


 ゆったりした余所行きのズボンを履いた母親が、髪を整えながら言った。


「待ち合わせに遅れるのは人として最低。博物館は混んでるだろうから、あなたは今日は蒼空くんから離れちゃ駄目よ。」


 乃々達は、蒼空親子と博物館に行くことになっていた。

 珍しい物を見るのが好きな乃々は、博物館に行くのをずっと楽しみにしていて、昨日はいつもよりずっと早くに寝た。

 乃々はポシェットでくしゃくしゃになっていたハンカチを膝の上に出して、どうにかして綺麗に伸ばそうとしているところだった。


「聞いてるの?」


 母親が見ていた小さな鏡から、乃々を振り返った。


「全く。そんなんじゃ博物館で迷っちゃうわよ。本当に気をつけなさいね。」


 ハンカチを無理矢理畳んで仕舞いながら、乃々ははい、と返事した。


「蒼空くんちのママの車で行くんだから、綺麗な方のサンダル履いていきなさい。」


 言いながら母親はチェストを開けた。


「日焼け止めがないわね……。」


 乃々はベッドから降りると、居間の端にあったスーツケースを開けて、新しいサンダルの袋を出した。