「好きなのは?颯馬じゃないのか?」
ジリジリと迫る榊原さんから距離を取ろうとするも、ブロック塀が邪魔して、その距離は狭まるばかり。
挙句、体の両サイドに手をつかれ、完全に逃げ場を失った。
「それなら誰」
射抜くような目つきから逃れようと目をそらす。
「金澤さん、今は俺を見て答えて。誰」
「……っ」
心臓がバクバクと強烈に波打っている。
「いっ、言いません」
顔を背けたままそう言えば、榊原さんが何かを諦めたようにため息をついた。そして少しの沈黙が流れたあと、榊原さんが「じゃあ」と小さく呟いた。
「俺の好きな人、あんたに教えてやるから、それ聞いたら金澤さんの好きな人も教えて」
「え、」
全私が聞きたくないと悲鳴をあげている。まだ失恋する準備も出来ていない。そんな事を知ってしまったら、仕事が始まってから榊原さんのそばにいる事に耐えられるかどうか分からない。
耳を塞ぎたくなる気持ちを抑えながら、〝無理〟だなんていう間も与えない榊原さんは、私をじっと見つめたまま口を開いた。
「あんただよ、俺の好きな人」
「………え」



