甘々重々御曹司に愛されすぎて困ってます



BBQの片付け後、主催者から簡単な挨拶があり、そこでようやくこの長いようで短いセミナーが終わり迎えた。

今日一泊して、明日朝イチの船で東京へ帰る。


なんだか寂しいかも。
このままホテルの自室に戻れば、あとはお風呂に入って眠るだけ。私は少し物足りない気がして、夜の海を見てみようとひとり皆とは逆方向に足を進めた。

足がまだ痛むせいで庇いながら歩くのに少し時間はかかったけれど、その時間でさえ今の自分にとっては有意義に感じられた。


「きれー…」


ブロック塀にもたれ掛かりながら、月の光に反射して輝く水面に私はすっかり心を奪われた。

最近3月になったばかりの今の風は、まだ冬に片足を突っ込んだままなのか、しっかりまだ冷たいけれど、それを我慢してでも眺めていたい。


「榊原さんと見たかったな」


誰もいないのをいい事に、本音をぽつりと零してみる。
結局あの誤解は解けないまま、慰労会も終わってしまった。別に明日伝えられればいいのだけど、やっぱりずっと心にしこりがあって気持ちが重い。


いっその事、仕事の話です!とか適当にほら吹いて呼び出しちゃおうか…なんて考えたりもしたけど、さすがにそんな勇気は湧き出てこなかった。迷惑かけるし。



「はあ」


綺麗でロマンチックな光景を前に、不釣り合いな大きいため息を漏らす。


「榊原さんの好きな人って、誰だろ…」


海の漣を見ながら、そう独りで呟いた。


「俺の好きな人?」


誰にも拾われるはずがなかったのに。
それは1番聞かれたくない人の耳に届いていたようだった。