「さ、榊原さんってあの榊原化学の御曹司なんでしょ?あいつもそれに勘づいて近づいてるのよ!あの女に騙されないで!」
「うん、でも媚び売ってんの俺の方だから」
「「え?」」
思わず漏れた声が莉子と被る。
「あとそれ分かってんなら言うわ。金澤さんは俺の大事な秘書だから。また彼女に何かしたら、その時はどうなるか…分かるよな?」
榊原さんの顔は私の方からは見えないけれど、ガタガタと体を震わせる莉子を見て多方予想がついた。
「ばかみたい」
そう吐いた言葉と同時に、莉子は私から奪った荷物を地面に投げ捨て、逃げるように倉庫から出て行った。
「榊原さん、すみません」
前を向く榊原さんの背中にそう声をかければ、ため息と同時にこちらへ視線が向いた。
「どれだけ心配かけたら気が済むわけ…」
ごもっともすぎて返す言葉もございません。
髪を無造作に掻きながら近づいてくる榊原さんに合わせる顔なんてなく、ただ視線を伏せたまま黙り込む。
「金澤さん、」
すぐ近くから声が聞こえて、目線だけ上に向けた。
切なげな顔で私を見る目と視線が絡まり合い、少しの沈黙が訪れたあと、再び榊原さんは言葉を紡いだ。
「抱きしめても、いいですか」



