また榊原さんに気を遣わせてしまった。
秘書なのに、本当なら私が気遣う立場なのに。
行き場のない気持ちが今にも溢れ出そうで、肩から掛けているバックのショルダーを両手でぎゅっと握る。
上手く気持ちを切り替える事が出来ないまま、エレベーターが1階に着く。軽快な音が響いて、扉が開いたのを確認し、のそのそと降りる。
そうすればロビーには既に何人か参加者がいて、皆ももう会場へと向かおうとしている様子だった。
私もその波に乗って会場へと向かおうとした時。
「沙雪ちゃん?」
「ひぃや、!?!」
耳元で囁くように名前を呼ばれ驚いた私は咄嗟にその声主から距離をとった。
「そんな驚くことだった?ごめんね」
この確信犯!!!
悪びれもなくそう笑って首をコテンとさせる柳さん。その少し小悪魔的な魅力に他の人なら騙されるだろうが、私はそうはいかない。昨日も今日もこの人は距離感がおかしい!!完全に私を弄んでいる!!むかつく!!
だけどこのまま言い返せば柳さんの思うツボだと思い、私はブンブンと左右に頭を振って気を沈めた。
「いえ、別に。それより昨日はありがとうございました。あの後大丈夫でしたか?」
「うん大丈夫。ていうか普通だね?キスしたのに」
「きっ!?!あれは事故です!!」
柳さんのペースについ呑まれそうになった私は、それに抗うように柳さんを放ったまま先に進もうした。
……が、それを逃すまいと今度もまた近距離で私の顔を覗き込んでくる。



