理性とは裏腹に勝手に伸びた手は、いつの間にか榊原さんの髪に触れていた。
「ありがとうございます…榊原さんが助けに来てくれて、私本当に安心したんです。今私が無事なのは榊原さんのおかげです」
榊原さんは責任感が強い人だ。そんな人をここまで追い込んでしまった自分に腹が立つ。きっと今ここで何を言っても、彼は私を悪くないと言い切るだろう。
肩から重みがなくなって、少し充血した目の榊原さんと視線が交じりあった。
一瞬、周りの音が全て消え去ったような感覚に陥る。
長い前髪の隙間から覗く目は色っぽく、不覚にも心臓が高鳴った。
少しずつ視野が榊原さんでいっぱいになっていく。私の目を見つめていた視線がゆっくりと下の方へスライドし、今それは私の口元を捉えているのだと鈍い私でも気づいた。
このまま流されたい、このまま榊原さんと、したい。
だけど、
〝『倫太郎には好きな人がいるよ』〟
あの時の柳さんの声が脳裏を過ぎる。
苦しい。
このキスを受け入れたら、榊原さんも私も、もう元には戻れなくなる。
榊原さんには自分の気持ちを大事にして欲しい。
私なんかじゃない。
榊原さんと想い合うべき人は私なんかじゃないから。
すき、だいすき。
だからこそ私は(仮)でいなくてはならない。



