私の足を気にかけながら、ゆっくりとベンチに降ろしてくれた榊原さんに頭を下げる。
と、突然ふわっと甘い香りが鼻腔をくすぐったかと思えば、その香りに体が包まれる。
これは、榊原さんの上着…?
「だめです!榊原さんが着てください!」
「あんた、そんな薄着で風邪までひくつもりか?」
「榊原さんこそ!」
「俺がそんなに弱いと?」
「違います!では…ありがとうございます…」
私が困らないようにあえて言葉を選んでくれている。意地悪な言い方の裏で、私を心配して、元気づけようとしてくれる優しい人だと改めて思った。
2人がけのベンチ。てっきり私の横に座るのかと思いきや、目の前にしゃがみこみ視線を合わせてくる榊原さんに胸が鳴る。
「あの、」
そう私が言いかけた次の瞬間。
不意に、榊原さんの頭が右肩にコツンと触れた。
「さ、榊原さん…?」
榊原さんの息を吸う音がすぐ近くに聞こえてくる。
「ほんと、情けないよな」
今にも消えてしまいそうな榊原さんの声が静かに響いた。
「足のこと、気づけなくてごめん。…怖い思いしてる時そばにいなくてごめん」
「え、いや!そんな!榊原さんが謝ることじゃないですから!私が鈍臭くてポンコツなせいなので!」
そう言ってハハハと笑ってみるも、つられて笑ってくれるわけもなく無反応。
「あんたが困ってる時、そこに一緒にいたのが俺じゃなくて颯真だったことがムカつく」
ぽろりと零れたであろうその言葉に戸惑う。そんな期待させること、言わないでよ。
私なんかのことで、悲しい顔しないで。
「あんたがもし俺を許してくれても、俺は今日の自分を絶対許さない」
榊原さんの大きな骨張った手が、徐に私の手を包んだ。
「だけど、あんたが無事で本当によかった」
「……」
上手く言葉が出てこなかった。
真っ直ぐで暖かい榊原さんの気持ちが嬉しくて。
今私の肩に頭を預けてくれている彼は、普段から知ってる榊原さんとは全然違って、とても弱々しくて。



