「はは、わかった気がする。倫太郎のこと」
そう独り言のように呟き、むくりと顔を起こした柳さんと目が合う。
「お礼にひとつ教えてあげる。」
まるで何の感情も伴っていない…そんな表情をしてる今の柳さんは少し怖い。私の目をまっすぐ見て、決して離さない。
「倫太郎には好きな人がいるよ」
「え?」
そんな柳さんの声が聞こえた次の瞬間。
「金澤さん、いるのか?!」
外から聞き覚えのある声が聞こえて、我に返る。
「さ、榊原さん?」
私の声が聞こえたのか、確信を持ってドンドンと扉を激しく叩く音が聞こえた。そして5発目ほどで扉が勢いよく開く。
髪の毛が乱れ、肩で呼吸をしている榊原さんを見て、胸が痛んだ。私のこと、必死で探してくれてたんだ。
「金澤さん!」
榊原さんは安心したような暖かい声色で私の名前を呼んだ。けれどそれと同時に、横から「沙雪ちゃん」と柳さんの囁くような声が聞こえて、私は反射的に顔をそちらに向けた。
そうすれば、私の視界は柳さんだけで埋めつくされて……
「…っ?」
唇に柔らかい感触が触れた。
頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。
その柔らかい何かが柳さんの唇だと気づいたのは、感触が離れて数秒後だった。



