「反省は後でいいから、とりあえずバケツ置いて早く戻ろう。手当しないと痛いでしょ」
柳さんは私の肩をそっと抱くと、強く閉まった扉を空いている手で押した。
けれど、開かない。
「え、あ、引くんですかね…?」
「いや、どっちにしろ開かないんだけど」
柳さんの感情の読み取れない言葉が頭で反芻した。
アカナイ……あかない……
「え、開かない!?!」
「うん。建付けが悪かったんだね。中からは無理そう」
絶望に次ぐ絶望。そんなあっさり言えちゃう程度の事の大きさではない。確かスマホも圏外だったし、誰にも連絡できない。
柳さんの顔を恐る恐る見上げれば、いつから私を見ていたのだろうか、柳さんと視線が絡まった。
「大丈夫だよ。そのうち誰かが気づいて助けに来てくれるはず。それまでとりあえず座ろっか」
焦る私とは裏腹に余裕綽々な柳さん。あまりにも私とは格が違う。
ひんやりとした床に二人でゆっくりと腰を下ろす。真冬とまでは行かないものの、やっぱり夜は冷える。追い詰めるように冷ややかな空気が容赦なく体に巻き付いてくる。
すぐ隣にいる柳さんの様子を横目で確認すると、随分と薄着なことに気がついた。少し震えているようにも見える。
……私のせいで、こんな目に巻き込んでしまった。
「え、ちょ、なにしてるの」
「脱いでるんです」
「いや、だから」
私は羽織っていた上着をバタバタと脱ぐと、躊躇する柳さんの肩へ強引に被せた。
「ほんと何で?そんなことしたら沙雪ちゃんが」
「私の自己満に付き合ってください」
今にも脱ぎ捨てようとする柳さんの手を咄嗟に掴み、しっかりと目を見てそう言い放った。
「柳さんは私のせいでこんな目に遭ってるんです。だからこれくらいさせてもらわないと気が済みません。ただ自己満ですけど、させてください。」



