「ここにいい男がいますが、いかが?その様子じゃいい感じの人、周りにいなさそうだけど」
別に恋に飢えてる訳でもないし、どうしても恋愛したい訳でもない。ましてや、こんな、よくも知らないチャラそうな男と恋に落ちるだなんて、そんなこと有り得ない。
有り得ないのだけれど…………
「私の絶対的味方になってくれますか」
男の方へ体を向け、そう問いかけてしまった。
バカみたいな話だ。なのに今はそんなバカみたいな状況に乗っかりたいほど、メンタルが滅入っているらしい。
「なれるよ、俺なら」
冷たい風が前から強く吹いた。前髪が後ろへ立ちあげられ、望まないオールバック状態。チクチクと顔全体を容赦なく刺す冷たい風と、ドクドクとなる心臓。顔が熱くが感じるは風のせい?それとも…?
ゆっくりとこちらに近づいてくる男から目が逸らせない。黒髪の少し長めの前髪から覗く鋭い奥二重の瞳は真っ直ぐに私を捉えていた。
「……じゃぁ、今日だけ」
「ん?」
「今日だけなってくれますか」
目の前の男性は訝しげに頭を傾けた。
「話を聞いてくれるだけでいいので」
「…まぁ、いいよ」
袋に入っていたまだ新しいビールを取り出し、徐に彼へ手渡す。
「え、その袋に自分の飲んだ缶投げ入れてなかった?」
「いらないなら返してください」
「いただきますけど」
二人でまた歩道橋の手すりに持たれて、冬の風で勝手に冷えたビールを口にする。
「…で、話って?」
隣の彼が丁度下を通ったバスを目で追いながら、そう問いかけてきた。
「同僚に嫌われてるんです、私。仕事できなくて」
もう二度と会うことはない人だろうし、という気持ちも拍車をかけて、何だか話しやすい雰囲気を放つ彼に私は迷うことなく言葉を発していた。



