覚束無い足取りでマイク前から去り、ステージ横の階段を降りる。体力を一気に消耗してしまったようだ。目もチカチカする。上手く足に力が入らなくて、あと1段という所で踏み外した。
……が、転けて恥をかくことなく、気づけば私は榊原さんの腕の中で体ごと支えられていた。
「榊原さん…」
「よく頑張ったな」
榊原さんの顔を見て安心したのか、ゆがみ始める視界。上手くできたかわからない、変な言葉遣いだったかもしれない、迷惑をかけたかもしれない。安心したという感情と同時に湧き上がってくる色んな不安が、私をどっと攻め立てる。
「大丈夫」
榊原さんは薄暗い会場を私の肩を支えながら抜け出すと、ロビーにあった椅子へゆっくりと座らせてくれた。
「すみません、ほんと…」
目を合わせる勇気が出なくて、俯いたままそう言葉を紡げば、大きな手が私の頭に触れたのが分かった。
「何の謝罪だよ。すごかったよ、あんた」
思いがけない言葉に思わず顔をあげると、優しい顔で私を見つめる榊原さんと目があった。
「そんな」
「あんたじゃなくて、俺が謝るべきだろーが。ほんと、ごめん」
珍しく暗い表情を見せる榊原さんに何て声をかければいいか分からず、口をパクパクさせていると、徐に顔の前に手を差し出された。
「てか、もうこんだけいたら十分だろ。帰るか」
「えっ、いいんですか?!私なら全然…」
「俺が帰るっつったら帰んの、ハイ、手、早く」
まだ震えの収まっていない手で、急かされるままに差し出された手を握った。
「金澤さん、本当に今日はありがと」
向けられた顔も手も、言葉も、何もかも優しくて。
私はそれだけで、なんだか全て救われたような気がした。
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