「さっ、榊原さん?!」
目を開けた先に見えたのは、さっきぶりの榊原さんの顔だった。咄嗟に彼から離れようとするけれど、ビクともしない。
「企画課の皆さん、初めまして。榊原倫太郎と申します。」
私と話す時とは違う穏やかで知的な口調ぶり。
榊原さんの圧倒的な雰囲気に、同僚たちが静まり返る。そして苗字が〝榊原〟ときた。勘のいい人達だ、きっと彼が御曹司であると気づいたのだろう。
「榊原グループの跡継ぎとして皆さんに認めていただけるよう明日から精進していくつもりです。そのために、社長直々の推薦で金澤さんを秘書に迎えました。」
〝社長直々の推薦〟というワードに同僚たちの空気が淀む。それを敏感に察知して、私は身を縮こまらせた。あまり気を煽り立てるようなことは言わないで欲しい。穏便にさっさとここを去りたいのだから。
「私にとって金澤さんは優秀な秘書です。これから共に頑張っていきますので、皆さんもどうかお力添えください。」
榊原さんが本心で言っているのか分からない。だけど、確かに聞こえたその言葉たちは私の荒んでいた心にじんわりと染み込んだ。
榊原さんは私から軽々とダンボールを取り上げ、「それでは」とオフィスを出た。私も続いて同僚に頭を下げると榊原さんへと小走りで追い付いた。



