翌朝、
ひかりはいつも通り、チャペル・ド・ルミエールにいた。
進行表を確認し、
メールを返し、
次の打ち合わせに向かう。
披露宴が終わった翌日の式場は、
驚くほど、何事もなかったように動いている。
昨日の緊張も、
静けさも、
すでに片づけられてしまったみたいに。
それでも。
ふとした瞬間に、
昨夜の光景がよみがえる。
淡い色のカクテル。
氷の音。
名前を呼んだときの、わずかな間。
——名前のない一杯。
ひかりは、無意識に息を整える。
仕事に戻るだけだ。
そう、自分に言い聞かせながら。
昼過ぎ、
スマートフォンが短く震えた。
画面に表示された名前を見て、
ひかりは一瞬だけ指を止める。
——高橋。
業務連絡だろう。
そう思って、通話に出た。
「神崎です」
『昨日は、お疲れさまでした』
あきの声は、
いつも通り落ち着いている。
「こちらこそ。無事に終わってよかったです」
『本当に。判断、助かりました』
仕事の言葉。
それだけで、会話は十分成り立つ。
一拍置いてから、
あきが続けた。
『せっかくですし』
『今回の件、
軽く打ち上げでもどうですか』
言い方は、あくまで自然だった。
仕事の延長。
労いのひとつ。
断る理由は、特にない。
「……打ち上げ、ですか」
『ええ。
時間のあるときで構いません』
ひかりは、少しだけ考える。
昨日の夜の静けさが、
胸の奥をかすめた。
でも、これは仕事だ。
「わかりました」
そう答える声は、
思っていたより落ち着いていた。
『じゃあ、また連絡します』
通話は、それだけで切れた。
スマートフォンを伏せ、
ひかりは一度だけ深く息を吸う。
正しい流れだと思った。
仕事のあとに、
仕事の話をする。
それなのに。
昨夜の余韻が、
まだ、消えていないことに気づいてしまう。
ひかりはいつも通り、チャペル・ド・ルミエールにいた。
進行表を確認し、
メールを返し、
次の打ち合わせに向かう。
披露宴が終わった翌日の式場は、
驚くほど、何事もなかったように動いている。
昨日の緊張も、
静けさも、
すでに片づけられてしまったみたいに。
それでも。
ふとした瞬間に、
昨夜の光景がよみがえる。
淡い色のカクテル。
氷の音。
名前を呼んだときの、わずかな間。
——名前のない一杯。
ひかりは、無意識に息を整える。
仕事に戻るだけだ。
そう、自分に言い聞かせながら。
昼過ぎ、
スマートフォンが短く震えた。
画面に表示された名前を見て、
ひかりは一瞬だけ指を止める。
——高橋。
業務連絡だろう。
そう思って、通話に出た。
「神崎です」
『昨日は、お疲れさまでした』
あきの声は、
いつも通り落ち着いている。
「こちらこそ。無事に終わってよかったです」
『本当に。判断、助かりました』
仕事の言葉。
それだけで、会話は十分成り立つ。
一拍置いてから、
あきが続けた。
『せっかくですし』
『今回の件、
軽く打ち上げでもどうですか』
言い方は、あくまで自然だった。
仕事の延長。
労いのひとつ。
断る理由は、特にない。
「……打ち上げ、ですか」
『ええ。
時間のあるときで構いません』
ひかりは、少しだけ考える。
昨日の夜の静けさが、
胸の奥をかすめた。
でも、これは仕事だ。
「わかりました」
そう答える声は、
思っていたより落ち着いていた。
『じゃあ、また連絡します』
通話は、それだけで切れた。
スマートフォンを伏せ、
ひかりは一度だけ深く息を吸う。
正しい流れだと思った。
仕事のあとに、
仕事の話をする。
それなのに。
昨夜の余韻が、
まだ、消えていないことに気づいてしまう。
