ひかりは、息を整える。
「直さんは」
初めて、
名前を呼んだ。
彼の指が、ほんの一瞬止まる。
「こういう仕事、長いですよね」
「それなりに」
「大変じゃないですか」
「……楽ではないです」
正直な答え。
「でも
向いてないとは、思っていません」
その言葉を聞いて、
ひかりはなぜか安心した。
「似てますね」
「またですか」
「仕事の距離の取り方とか」
直は、少しだけ苦笑する。
「近づきすぎると、
壊れるものもありますから」
「……そうですね」
二人とも、
それ以上は言わなかった。
言わなくても、
伝わることがあると知っているみたいに。
グラスの中身が、少し減る。
夜は、まだ続いている。
でも、
この時間に名前をつける必要は、
まだない気がした。
