歓談の時間が進むにつれて、
バーカウンターの前は、少しずつ人が増えていった。
グラスを片手にした友人たち。
写真を撮り終えたばかりの親族。
会話の合間に、自然と足が向く。
ひかりは、全体を見ながら、
その流れが“詰まっていないか”を確認する。
——問題ない。
カウンターの内側で、
彼は動線を一歩だけずらし、
二人同時に注文が入ると、
先に終わる方から手を動かしていた。
待たせない。
でも、急がせもしない。
そのとき。
「すみません」
ゲストの一人が、少し困った顔で声をかけた。
「このカクテル、ノンアルコールでお願いできる?」
一瞬だけ、注文が重なる。
ひかりは、視線を上げた。
進行に影響はない。
でも、判断が遅れれば、空気が乱れる。
彼は、迷わなかった。
「もちろんです」
穏やかな声。
ボトルに伸ばしかけた手を止め、
別のグラスを取る。
「お好みは、甘めとさっぱり、どちらですか」
「……さっぱりで」
「かしこまりました」
動きは、変わらない。
氷の音が、ひとつ。
グラスが置かれ、
透明な液体に、軽く色が落ちる。
「こちらです」
差し出されたグラスを受け取ったゲストが、
ほっとしたように笑う。
「ありがとう。飲みやすい」
「よかったです」
それだけ。
でも、そのやり取りを見ていた周囲が、
少しだけ安心した顔になる。
——場が、落ち着く。
ひかりは、無意識に息を吐いていた。
「判断、早いですね」
隣で、あきが小さく言った。
「想定外にも慣れてる」
評価は、淡々としている。
「はい」
ひかりは、それ以上説明しなかった。
必要なのは、結果だけだ。
カウンターの向こうで、
彼が一度だけ視線を上げる。
ひかりと、目が合う。
ほんの一瞬。
彼は、何も言わない。
でも。
——任せている、という気配。
ひかりは、進行表に目を落としながら、
もう一度、会場全体を見渡した。
この場所に必要な人は、
ちゃんと、ここにいる。
そう思えたことが、
少しだけ、誇らしかった。
