祝福のあとで

朝は、
カーテンの隙間から差し込む光で始まった。

ひかりは、
最初、自分がどこにいるのか分からなかった。

天井の色。
空気の匂い。
それから、背中に触れている温度。

——あ。

思い出すより先に、
身体が理解していた。

直の腕が、
無意識みたいに腰に回っている。

寝息は静かで、
昨夜の気配とは別人みたいに穏やかだった。

ひかりは、
動かないようにそっと息を整える。

少しでも身じろぎすると、
あの夜の続きを思い出してしまいそうだったから。

——昨日。

玄関に入って、
靴を脱ぐ間もなかった。

鍵の音が消える前に、
距離がなくなって。

いつもより強くて、
逃がさないみたいな手。

言葉は少なくて、
その分、伝わるものが多すぎた。

ひかりは、
ぎゅっと目を閉じる。

——あんな直、初めてだった。

怖くはなかった。
でも、余裕もなかった。

ただ、
離れたくない、
それだけが確かだった。

直が、
眠ったまま少しだけ身じろぎする。

腕に、
ほんのわずか力が入る。

無意識の仕草。

それだけで、
胸の奥がじんわり温かくなる。

——大丈夫。

ひかりは、
そう自分に言い聞かせる。

昨夜は、
感情が先に出ただけ。

今は、
ちゃんと朝だ。

カーテンの光が、
もう少しだけ強くなる。

ひかりは、
直の腕の中で、
もう一度だけ目を閉じた。

この朝を、
まだ終わらせたくなかったから。


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