祝福のあとで

玄関で重なった唇が、
名残惜しそうに離れる。

直は一度だけ、深く息を吐いた。

それから、ひかりの手を取る。

引く力はさっきより弱いのに、
迷いはない。

「……こっち」

短い一言。

靴を脱ぐ動作さえ、
どこかぎこちない。

廊下を進む間も、
手は繋がれたまま。

ひかりの歩幅に合わせて、
直はゆっくり進く。

ドアが開く。

柔らかい灯りの部屋。

直はひかりを中に入れて、
背中にそっと手を添えた。

急がない。

でも、止まらない。

ベッドの縁に触れたところで、
直は一度だけ立ち止まる。

ひかりを見る。

「……大丈夫?」

さっきまでの強さが嘘みたいな声。

ひかりは、
小さく頷いた。

それだけで十分だった。

直はひかりを抱き寄せて、
今度は額にキスを落とす。

ゆっくり、
確かめるみたいに。

「今日は」

低く、囁く。

「ちゃんと、離さない」

ひかりの指が、
直のシャツを掴む。

それに応えるみたいに、
直はひかりを抱いたまま、
静かにベッドへと倒れ込んだ。

灯りは、
そのまま。

でも、
視界はゆっくりと曖昧になる。

言葉はいらなかった。

触れ合う温度だけで、
今夜は十分だった。