祝福のあとで

ドアが閉まる。

鍵の音が鳴る前に、
直はひかりの手首を引いた。

靴を脱ぐ間も、
呼吸を整える間も与えずに。

背中が、玄関の壁に当たる。

驚くより先に、
唇が重なった。

深く、迷いなく。

いつもの確認するようなキスじゃない。
逃げ道を残さない距離。

ひかりが息を吸おうとした瞬間、
直の手が、腰を引き寄せる。

「……直」

名前を呼ぶと、
一瞬だけ唇が離れた。

でも、視線は逸らさない。

近すぎる距離で、低く言う。

「ごめん」

謝罪なのに、止まる気はない声。

「今日だけは」

額を軽くぶつけるみたいに近づいて、

「優しくできない」

ひかりの胸が、大きく上下する。

拒む理由は、もうどこにもなかった。

「……いい」

そう言うより先に、
また唇が塞がれる。

今度は、少し乱れる。

直の手は、背中から肩へ、
確かめるように触れて、離さない。

強引なのに、
ひかりの反応を全部待っている。

「靴、まだだろ」

囁く声は低く、
でもどこか笑っている。

ひかりは、息を整えられないまま、
小さくうなずいた。

玄関の灯りの下で、
二人の影が重なる。

今夜は、
言葉より先に、
触れたい気持ちが溢れていた。