それから、控えめに。
「実は…
日本に帰ってきてからすぐに、婚約したの」
場が、ほんの一拍だけ止まる。
「えっ?」
「ほんと?」
「いつの間に!」
驚きの声が重なって、
すぐに笑顔に変わる。
「おめでとう!」
「全然気づかなかった!」
ひかりは、
少しだけ肩をすくめた。
「まだ、落ち着いたらでいいかなって思ってて」
自慢でも、照れ隠しでもない。
事実を、そっと置いただけ。
そのとき。
テーブルの端で、
今まで黙っていたあきが、
ゆっくりとグラスを置いた。
「……そうなんだ」
声は穏やかだった。
でも、
その視線が、ふっとカウンターの方へ向く。
ひかりは、
それに気づかないふりをして、
グラスに口をつけた。
まだこの時は、
ただ賑やかな夜の続きだと思っていた。
このあと、
少しだけ空気が変わることを、
まだ知らないまま。
ひかりは、
ふと視線を上げて、店内を見回した。
その中に、
懐かしい顔を見つけて、ほんの一瞬だけ目を瞬かせる。
——あき。
専門学校時代、
同じ時間を過ごしていた人。
それ以上、
何かを思い出す前に、
ひかりはまた笑顔に戻った。

